MoneyForwardのメディアに拙書のサマリー第二弾!

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アマゾンが重要戦略に挙げている唯一の国とは?中国進出の失敗から学んだノウハウ

世界を代表するEコマース企業・アマゾンですが、事業を展開しているのは21カ国しかないのはご存知でしょうか?

アマゾンジャパン元経営会議メンバーの星 健一氏の著書『amazonが成長し続けるための「破壊的思考」』(扶桑社)より、一部を抜粋・編集してアマゾンが21カ国にしか事業展開していない理由について解説します

アマゾンが世界で21カ国しか展開していない理由と撤退事業

アマゾンが世界でEコマース事業を展開しているのが21カ国しかないということも、意外に少ないと感じる方が多いのではないだろうか。

理由は明確だ。アマゾンは、アマゾンが得意とするビジネスモデルを展開できる国でしか事業を展開していないということである。最大のポイントはロジスティクスだ。

アマゾンは顧客に商品を届ける日を確約する。その信頼に応えうるロジスティクスの仕組みが確立できない国では、アマゾンはアマゾンとしてのサービスが行えない、だから進出しないのである。

さて、唯一、国の市場として11の重要戦略に挙げられているのはインドである。

2019年4月にアマゾンが中国でのEコマースからの撤退を発表した。中国市場で一気呵成に投資しなかったことでアリババなどの競合他社の台頭を許してしまった。この失敗から二度と同じ轍は踏まないように、インドでは多額の投資を行った。そして、スケールメリット(企業規模の拡大によって得られるさまざまな効果)を出すべく、この大市場で多額の赤字を出さざるを得ない状況が続きながらも踏ん張って、売上拡大を図っている。

他にも新しい事業の立ち上げや買収を繰り返して成長を続けるアマゾンだが、もちろん失敗した事業もある。

2014年に「ファイアフォン」で参入した携帯電話(スマホ)事業は全く売れず、2014年第3四半期には1億7000万ドル(170億円)の巨額な損失を計上し、2015年に完全撤退した。

「アマゾンオークションズ」というオークション、「ローカルレジスター」というモバイル決済、ファッション専門販売サイトであった「Endless.com(日本ではJavari.jp)」、「ウェブストア」というネットショップ立ち上げ支援サービス、「マイハビット」と呼ばれた会員制セール、「アマゾンローカル」というレストラン予約宅配サービスなどは撤退した事業のほんの一部である。また、直近の2021年3月には2015年から米国とイギリスで展開していた68カ所全ての実店舗書店「アマゾンブックス」を閉鎖すると発表した。

失敗が許される文化があり、失敗から多くのことを学び取るという考えで、見切りを付ける思い切りもいいのが、アマゾンの事業展開の特徴ともいえる。高い授業料ではあるが、失敗から得たノウハウがその後の新規事業の成功に結びついている。

アマゾンジャパンの意外な業績

アマゾンの日本法人の軌跡を確認しておこう。

現在の「アマゾンジャパン合同会社」は、日本国内で商品調達、販売サイト構築、販売、配送、課金、回収までの一環プロセスを完結できるようにするため、2016年5月に当時のアマゾンジャパン株式会社とアマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社が統合したものだ。もちろん、日本で登記された会社として他の日本の会社と同様に納税している。

もともとアマゾンジャパン株式会社は、日本の顧客向けの販売元であった米国のAmazon International Sales, Inc.に対して業務サポートを提供する形態をとる会社であった。以前の形態と現在の形態、どちらにしても、日本独自で開発するサービスやシステムはわずかで、仕事を進めるに当たっては米国本社との関係が濃密だ。

アマゾンは展開する全ての国で、「同じサービスを同じ品質で」提供することを目指しており、システム開発などは基本的に米国本社が統括している。システム開発のみならず、最終意思決定、予算配分、企業文化の統一、人事制度の統一、財務、法務などバックエンドのコントロールなど、米国本社を軸とした「企業統治=ガバナンス」が徹底されているのも、アマゾンという世界的企業の大きな特徴となっており、それが強みでもある。

日本企業の海外展開と比較してみよう。私は前職でフランス、ルーマニア、タイにおいて社長として日本企業の現地法人を経営していた。もちろん、メーカーでも商社においても、販売については日本本社の各製品事業部との仕入れ価格、納期調整などを行いながら、また販売戦略などをすり合わせながら進めていく。

一方、それ以外の販売をサポートする販売網構築、組織構築、社内システムの構築、企業文化の醸成などは、日本本社からの影響力は少なく、それぞれの現地法人に任されることが多かった。さらに買収した企業でさえ、遠慮からか有効的に統治することなく、そのまま放置で買収によるメリットを出せていないケースもあった。

私がフランスの会社を任されたのは買収後10年も経ってからで、赤字垂れ流しの状態をこのままにしておくわけにはいかないという背景があった。しかし、現地法人任せで、ガバナンスを効かせてテコ入れしてこなかったため時すでに遅しであり、結局、会社を清算することになった。

逆にアマゾンが象徴する米国企業のガバナンスには遠慮などという文字は全くない。各国の現地法人を細部までコントロールし、権限を本社に集中させ、情報を吸い取って、グローバルでの優先順位のもとに投資を振り分けている。

ガラパゴス化(独立した環境で最適化が進み、その結果、他地域との互換性を失い取り残されること)を排除し、重複した組織を少なくし、非常に効率的な経営ではあるが、各国に与えられる決裁権が日系企業と比較すると小さいので、実際はこのような外資系の経営層の仕事は面白くないと感じる人もいるかもしれない。

余談にはなるが、私が前職の株式会社ミスミを退職したのも同様の理由からだった。当時、私はタイ法人の社長として4事業を統括していたが、本社がそれぞれの事業部のグローバル軸を強化し、海外法人の各事業マネージャーは、海外法人社長へのレポートラインから本社のそれぞれの事業部に変更するという決定がなされ、社長としての決裁権縮小により士気がさがったからだ。

もちろん、理にかなっており適切な判断ではあったが、海外法人社長の役目が人事、財務、法務、コールセンター、ロジスティクスセンターなどのバックエンドの管理のみになるということに面白みをなくしたのである。外資系も日系企業も効率的な経営と社員のモチベーションは表裏一体なのかもしれない。

さて、本題に戻りグローバルでの業績分析と同様に、アマゾンジャパンの2009年から2021年まで13年間の売上推移を確認しておこう。

私の入社直後、2009年度には約3000億円弱だった売上は、2021年度には約2・5兆円に拡大している。そして、各メディアなどが推計しているアマゾン直販部隊の売上とマーケットプレイスの販売事業者による売上を含めた流通総額はおよそ5兆円程度である。

規模感を比較すると、楽天は楽天市場のみの流通総額は数年前から公開しておらず、楽天トラベルを含めた流通総額は5兆円であるので、アマゾンはその高い成長率によって先行していた楽天市場を越えていると推測できる。また、販売事業者のみのマーケットプレイス流通総額は、2018年度には9000億円を超えていたことを発表しているが、2021年度では、少なくとも2・5兆円以上になるとみられる。

とはいえ、北米と比較して日本でのEコマースにおけるマーケットセグメントシェアがまだまだ低いにも関わらず、対前年比の成長率は北米やドイツ、英国などのグローバルよりも低水準に留まっている。2020年の日本のサービス、デジタル分野を除く物販系のEコマースの市場規模は12兆2333億円で、小売市場全体151兆3150億円に対して8.08%である。そして、アマゾンジャパンのEコマースにおける売上2.2兆円のセグメントシェアは米国の39%に対して14%程度にとどまっていることになる。

そのため、グローバルの売上に占める日本の売上の比率が2014年度以降は10%を切り、2021年度はわずかに4.9%になっているように年々低下。アマゾン全体における日本のビジネスの存在感は薄くなっていることが否めない。

日本でのマーケットセグメントシェアの成長率がグローバルに比べて低水準に留まっているのは、そもそも日本ではヤマト運輸や佐川急便、日本郵便といった宅配ネットワークの整備が進んでいて、楽天市場をはじめとするEコマースの競合が激しい点が挙げられる。要は、誰でもそれなりに迅速な配送サービスを顧客に提供することが可能である。

もちろん、アマゾンのようにビジネス規模が大きくなって同レベルのサービスを継続して提供することはそんなに簡単なことではない。が、アマゾンにとっては、この優良な日本の宅配サービスがプライム会員向けの配送サービスを通常配送に対して差別化を難しくしている。プライム会員向けのお急ぎ便配送と非プライム会員向けの通常配送とでは注文する時間によっては配送まで数時間から1日程度しか差がなくなり、配送特典だけではプライム会員になるメリットが少なく会員数拡大のブロッカー(障壁)になっている。

もう一つは、日本の人口が平野にある東京、名古屋、大阪、札幌、福岡などの大都市に集中しており、そこにはスーパーマーケット、コンビニエンストア、ドラッグストア、その他量販店が網の目のように多く立ち並んでおり、利便性がすでに確立されていることが挙げられる。土地が広大で、買い物も不便な人口の割合が多い米国などと比較すると、日本の大都市に集中している顧客は、アマゾンの配送スピードなどをメリットとして感じにくいからだ。

このような環境の中、1~2時間での配送を可能にする「Prime Now(プライムナウ)」や生鮮食料品を扱う「Amazon Fresh」の成功は日本では簡単ではないであろう。実際に2019年11月からは、「Prime Now」の対象エリアを縮小し、2021年3月には遂にサービスを終了している。

amazonが成長し続けるための「破壊的思考」

著者:星 健一

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アマゾンジャパンの創成期から経営に携わった男が「成功の秘密」を解き明かす!!
amazonがコロナ禍の2年で19兆円も売上を伸ばした理由とは?
コロナ禍でアマゾンは大きく売上を伸ばしました。2020年は米国の売上が対前年比+38%、日本では+25%と大きく伸び、前年の2019年はそれぞれ+21%、+14%の伸びにとどまっていたので高い伸びだったことがわかります。日々の買い物や外食が制限されているなか、人々の生活を支え売上を拡大させただけでなく、アマゾンがその間も数々のイノベーションで顧客への新たなサービスを展開してきた結果と言えるでしょう。
アマゾンのビジネスモデル、経営手法、企業文化にはイノベーションをもたらすためのさまざまな「基準」が存在します。その中でも興味深いのが「破壊的に考えろ」というもの。
本書では、アマゾンジャパンの創成期から経営に携わった筆者が、その「破壊的思考」はもとより「リーダーシップ・プリンシプル」など、アマゾンが成長してきた「考え方」などを詳しく紹介します。eコマースに関心がある人はもちろん、多くのビジネスに直接的に役立つ思考法や手段が満載です。