週刊SPA!さんに、第4回目の連載記事を掲載いただきました。

一生、食いっぱぐれない人とは…落ち目の日本で生きのびる道/アマゾン元幹部に聞く

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200311-01649301-sspa-soc

一生、食いっぱぐれない人とは…落ち目の日本で生きのびる道/アマゾン元幹部に聞く

3/11(水) 8:51配信

週刊SPA!

 新型コロナ危機で、IT技術によってマスク不足を防いだ台湾。学校をオンライン授業に切り替えた中国。IT時代に日本が遅れをとっていると実感した人も多いのではないだろうか。
日本企業が凋落して、米中をはじめとする世界企業に攻め込まれている現在。私たちは、今後も稼いで食べていかねばならない。今、どんな力をつけるべきなのか?

アマゾンジャパン元経営会議メンバーで、『amazonの絶対思考』の著者である星健一さんに、話を聞いた。

逃げ切れない世代はどうすべきか?

――まず、これから日本はどうなると思いますか?

星:日本の経済はまちがいなく衰退していきます。1億人以上の人口がいる巨大マーケットとはいえ、20年後は人口が減って老齢化しマーケット需要構造が変わってくる。その変化により、ますます海外マーケットを相手にしなくてはいけないし、移民も受け入れていくことになるでしょう。
10年後、たとえば都市銀行はまだ潰れていないでしょう。しかし、20年後はわからない。現在40代50代の人は、表現は悪いですが、ギリギリ逃げ切れると思います。でも、20代30代の人は激変した社会に直面するでしょうね。

――凋落する日本と避けられないグローバル化の流れ。どうすればいいですか?

星:まずは、現状をきちんと認識するということです。日本のメディアは経済を悲観的に語るわりに、日本の民族や文化に対してはすごく甘くて、「日本は世界に愛されている」「日本はこんなに素晴らしい」と報じますよね。

こんなに住みやすく豊かな文化の国に暮らせば、そこそこ幸せ。安定したゆるい感じの日本にいれば安心だと思っている若者も少なくないかもしれません。しかし、今とは異なる厳しい世界で生きていかざるを得ないのは明らか。現状認識を変えて、まず、外に目を向けるということ。そして、自分のスキルセットを棚卸しすべきだと思います。

英語力は絶対に必要。議論の余地はない

――具体的には何が必要でしょう。

星:英語はマスト。英語力が必要かどうかなんて、議論するまでもない。やるしかありません。悔しいけれど国際語ですから。さらに中国語ができたほうがいい。
なんだかんだ言っても、日本は1億2000万人いるので市場は大きく、いまは英語がなくてもできる仕事はたくさんあります。でも、20年後はそうはいきません。英語ができたうえで、自分のスキルは何で、何が課題なのかを明確にすることです。

――とはいえ、自分のスキルをどう考えていったらいいのか、よくわかりません。

星:経営戦略や現状分析を考えるとき、「SWOT(スウォット)分析」というフレームワークがあります。Sは 「Strengths」強み、Wは「Weaknesses」弱み、Oは「Opportunities」で機会とか挑戦できるエリアのこと。Tは「Threats」で脅威、リスク要因ですね。
こうした観点から自分の棚卸しをしていくわけです。自分の強み・弱みは何か? 人生で何をしたいんだろう? 自分のスキルセットは何があるのか? 何が足りないのか? こうしたことを、まず整理する。そのうえで、どうキャリアを作っていくのかを考えるんです。

――キャリアも自分で作っていく、と。

星:キャリアの作り方はたくさんあって、垂直方向にスキルを高めていく“匠(たくみ)”系もそのひとつ。技術者やファイナンスアナリストなど、エキスパート、スペシャリストと呼ばれる道ですね。
あるいは、ジェネラルマネージャーの道を選ぶのなら、横方向にいろいろな部門を経験し、さまざまなスキルをつけていく必要があります。
会社から決められた部門で指示どおりの仕事をしていてはダメです。5年後、10 年後の自分を思い描き、そのためには3年後に何をしていなくてはいけないのか? いま、何をしておくべきなのか? 転職も含めて、プランを立てるべきだと思いますね。

ご用聞き営業マンのような仕事に未来はない?

――近い将来、なくなる仕事も多いと言います。どんな仕事が有望ですか?

星:たとえば、いまのアマゾンで多く求められている人材は、エンジニアやプロダクトマネジメントなどの「手に職」系です。10年くらい前からですが、プログラマーというかテクニカルエンジニアの需要はものすごい高く、給料も大卒初任給で年収何千万円ということもある。

――やっぱり、技術者ですが…。

星:人間がやらなくてもいい仕事、AIなどシステムが代替できる仕事は、正直、厳しいでしょうね。
例を挙げると…私は「アマゾンビジネス」というBtoBの購買サイトを立ち上げたのですが、これは見積もりをとる必要もなくオンライン上で安いところがすぐにわかり、ワンクリックで購入できるというものです。

ご用聞きの営業マンの需要も減るし、企業内の購買も効率化が進めば、担当も必要なくなる。こうした仕事は、就職も転職も厳しく、なにより需要減となる仕事自体に楽しみを見出しにくくなる。考えること、戦略を練ること、手に職系やクリエイティブ系のニーズのほうが断然、高くなるでしょうね。

早いうちに、海外との仕事で揉まれたほうがいい

――あとは、やはり「海外との仕事」は視野に入れるべきなんですよね?

星:そうですね。日本国内のマーケットが縮小していくことは確実ですから、チャンスも当然減っていきます。
一方で、インドや中国、東南アジア、アフリカ諸国など、今後も人口が増えていく国があるわけです。将来性がありますし、仕事をしていても活気があっておもしろい。仕事をするモチベーションにつながるとは思いますね。

――発展中の国はおもしろいですか?

星:私自身、最初に赴任した国がソ連で、そのあと、インド、シンガポール、フランス、ルーマニア、タイで働きました。成長途中の国のほうが、いろいろなチャンスがあって、仕事はおもしろいですよ。ただ、法律が未整備だったり、理不尽なことはたくさんあります。でも、若いときにそういう環境で揉まれた経験は、成長につながったと思っています。

――英語も含め、勉強しなきゃですね。

星:勉強することはビジネスマンにとって常に必要。それが本なのか、新聞なのか、ウェブなのか、媒体は時代によって変わるでしょうが、学ぶことはやめてはいけないと思います。

――星さんは、数社を経てアマゾンで50代まで活躍し、仕事人としてはサバイブできたわけですよね。意識して学んできたことはありますか?

星:これまで働いた国で、その国の言葉はなるべく覚えるようにしました。英語だけで仕事をすることもできますが、母国語で話すと現地の従業員との距離が近くなる。お客さんとも直接話ができて、情報が直接入って来る。語学にはものすごく時間を費やしましたね。

というのも、手痛い経験をしているんです。タイにいたとき、タイ語が話せなくて……ある日、会社に行くと従業員が誰もいない。私に対してのストライキだったんです。
言葉の壁もあって、従業員との間に距離ができてしまっていた。給料の不満もあったようですが、「星さんは上ばかりを見て、自分たちのことを考えてくれない」「信用できない」という思いを募らせていた。私はそれにも気付かなかったんです。

――うわぁ。

星:いまはエラそうに語っていますが、そんな痛い経験もしました。だからこそ、言葉の大切さ、郷に入れば郷に従う必要性を知ったわけです。失敗したからこそ気がついたことですね。

――まずは旅行でもいいから、広い世界を見たほうがいいですね。今はLCCもあって安いんですから。

星:若いうちにチャレンジする場に飛び込んでいかないと、30歳、40歳になったときに周囲と大きな差がついてしまいます。人間は楽なほうを選びがちですが、挑戦したほうが人生は楽しいですし、道は拓けていくはずです。

50代で転職を決めたわけ

――つい最近、星さんは新たなるチャレンジをされたそうですね。

星:そうなんです。2月から「オイシックス・ラ・大地」という有機自然食品を中心としたEコマースのCOO就任予定でお世話になることにしました。

日本の食料自給率が低い中、またオーガニック食品の供給量がまだ少ない中、消費者にその安全、安心な野菜を届けるだけではなく、生産者にも報いるビジネスモデルを構築しており、そのミッション、社会的意義に共感し、入社を決めました。
以下が、「オイシックス・ラ・大地」のミッションステートメント(企業理念)ですが、素敵だと思いませんか?

<これからの食卓、これからの畑。
より多くの人が、よい食生活を楽しめるサービスを提供します
よい食を作る人が、報われ、誇りを持てる仕組みを構築します
食べる人と作る人とを繋ぐ方法をつねに進化させ、持続可能な社会を実現します
食に関する社会課題を、ビジネスの手法で解決します
私たちは、食のこれからをつくり、ひろげていきます>

――今までの経験を「オイシックス・ラ・大地」で、どのように活かすつもりですか?

星:やはり、さらにスケールさせるための仕組みづくりだと思います。安心安全な食品の需要がますます高まっているなか、顧客数も売り上げも急速に拡大しています。消費者、生産者の両方にさらに貢献できるように、供給量を拡大し、利便性を高める、そしてそれを支えるメカニズムをアップグレードできればと考えています。

――今までのインタビューで話してもらったアマゾンでの経営手法やリーダーシップスタイルは、日本企業でも受け入れられるでしょうか?

星:それが、入社してみたら「オイシックス・ラ・大地」の行動規範が、アマゾンのものと似ているところがあるのです。ちょっと比較してみますね。

1.(Oisix) ベストを尽くすな、Missionを成し遂げろ
(Amazon) これは、アマゾンのDeliver Resultsと同じです。和訳は公式ではなく、私の個人的な訳ですが「アマゾニアンは結果を出せ」となります。

2.(Oisix) 早い者勝ち、速いもの価値
(Amazon) Bias for Action――ビジネスにはスピードが重要

3.(Oisix) お客様を裏切れ
(Amazon) Customer Obsession――顧客中心の判断基準は妥協するな
(Amazon) Think Big――大きな視野で物事を考えろ

4.(Oisix) サッカーチームのように

5.(Oisix) 当事者意識、当事者行動
(Amazon) Ownership――「それは私の仕事ではありません」は禁句

6.(Oisix) 強さの根源は成長力
(Amazon) Learn and Be Curious――常に学び、好奇心をもつこと

7.(Oisix) 前例はない。だからやる
(Amazon) Invent and Simplify――常に創造性とシンプルさを求める
(Amazon) Are Right, A Lot――多くのことに正しい判断を下す

このように常に顧客中心主義であり、当事者意識をもって、顧客の利便性をイノベーションで向上していく方向性はアマゾンで私が培ってきた考え方を特に変える必要もなく、ますますそれを訴求できるように行動していけばいいだけです。例えば、Oisixでは、安心安全はそのままに、共働きご夫婦などの顧客の利便性をさらに追求し、料理の時短を可能にしたミールキットなるものを開発しているのが、まさに行動規範から生まれたものです。

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まさに、50代でもサバイブしていることを証明したようなCOO就任。20-30代はもちろん、「なんとか逃げ切ろう」と思っている40-50代も、まだ諦めるのは早いかもしれない。

【星健一氏プロフィール】
1967年生まれ。JUKIおよびミスミで海外現地法人の社長などを務める。2008年アマゾンジャパンに入社、リーダーシップチームメンバーとなり、創世期~成長期の経営層として活躍。2018年アマゾン退社後は、kenhoshi & Companyを設立し、セミナー講師、コンサルティングを手掛ける。2020年2月、「オイシックス・ラ・大地」に入社、COOに就任。著書『amazonの絶対思考』

<取材・文/鈴木靖子>

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