先見経済8月号に掲載されました。(前半)

 

私は過去20年間のほとんどを海外で過ごしました。1989年に旧ソ連から始まりインド、シンガポール、フランス、ルーマニアと転々とし、ミスミという機械工業系の商社に入社、そしてタイにいき、直近10年間がアマゾンジャパンです。その後、kenhoshi&Companyを設立し、コンサルティングなどのサービスを提供しながら、本年2月より、オイシックス・ラ・大地株式会社という有機野菜のeコマースの会社のCOOに就いており、その他にも社外取締役を何社かやらせて頂いております。

本日はアマゾンを中心に内部の人間しか知らないことをお話いたします。

 

アマゾンという巨大企業と理念

 

アマゾンは、1995年にジェフ・ベゾスが設立し、世界中に3億人の顧客がおり、2019年には28兆円(1ドル100円換算)の売上を誇り、社員数は世界に79万人もいる大きな会社です。これほど大きな会社であるにも関わらず、グローバル展開はわずか16カ国です。日本の大手商社が世界に100カ国以上の事務所を設けているのとはかなり違います。

社員に対しても、外部に対しても、地球上で最もお客様を大切にする企業であるということ、それはオンライン上で買い求められるありとあらゆるものを探し、発見、購入できる場を作り、できる限り安い価格で提供するように努力する。これはマーケットに対してプッシュをすることではなく、お客様が選びやすいように場を提供するという、一つの理念です。そしてお客様からスタートし、常にお客様の立場で考えるということ、この企業理念が人事組織や戦略の立て方に繋がり、どのようにアマゾンが大きくなって来たかも、後ほど人の部分のところで説明させて頂きたいと思います。

1995年にジェフ・ベゾスがアマゾンを立ち上げるときに、シアトルのレストランでナプキンに描かれた有名なイラストがあります。ビジネスモデルを描いたもので、これが25年経ってもそのまま残っています。ビジネスモデルは、陳腐化しないために単純であるということが非常に重要だと改めて思います。上から順に説明すると、品揃え「Selection」を増やすとお客様の満足度「Customer Experience」が良くなり、そうすれば来店客数「Traffic」に繋がり、それらが大きくなるとアマゾンで売りたいという卸業者やメーカー、販売事業者「Seller」(売り手)の数が増えます。この輪が廻ると中央の「Growth」(成長)が雪だるま式に大きくなっていく、という絵です。大きくなれば大きくなるほど販管費などが低コストになります。そして通常は残りを利益とするべきですが、ご存知の通りアマゾンは、設立から10年以上赤字続きです。今も営業利益は、ほんの僅かしか計上していません。これは低価格でお客様に還元しているからです。もちろん投資に回している分もありますが、アマゾンは短期的な利益ととして取るのではなく、長期的に経営を考えています。

 

お客様の満足度を高める

3つの柱

「品揃え」、「低価格」、「利便性」、これらの3つはアマゾンに入ると叩き込まれます。これを常に社員は追求しなさいと本当に口酸っぱく言われます。もちろん小売業中心の考えですが、お客様の満足度を得られるのは、まずはなんといっても品揃えだと叩き込まれます。地球上で最も豊富な品揃えと申し上げましたが、アマゾンに来れば何でもあるようするために、自分達で仕入れる物だけではなく、マーケットプレイスとして場を提供し、メーカーや販売事業者がアマゾンで販売できるようにもしました。

そして「低価格」ですが、日本語だとイメージが悪いので、私はあくまで「価格」という日本語にしていますが、英語では「Low Price」とはっきり謳っています。日本ではどうしても「安かろう悪かろう」という言葉が思い起こされますが、還元するという意味では、利益が出ようが出まいが低価格で提供します。それは、他社が100円で売っている物をアマゾンが110円で売っていればお客様からの信頼が得られないので、仕入れ値が110円であってもアマゾンは100円で売る、という意味の低価格も含まれています。もちろんそのための仕組みも出来ています。

3つめの「利便性」ですが、お客様がアマゾンのサイトで簡単に探すことができ、注文すれば今日か次の日には届く、また、品揃えも利便性の一部だと言えます。さらに様々な支払い方法が選択できることも利便性かもしれません。利便性を追求しだすと際限がありませんが、これらの3つをアマゾンの社員は追求しています。基本的にはこの3つです。

そしてそこで重要なのが、これらを支えているのがイノベーション、別の言葉でいうとITです。よくアマゾンでは「Scale」という言葉を使います。拡大させる、大きくさせるという意味ですが、これを人間が行っても自動化できなければスムーズに廻っていかないので、一挙に大きくはなりません。なので、これを支えるのはITや、自分たちの新しい考えで常に新しいサービスを提供し、この3つを支えるという意味になります。

また、「Selection」は品揃えの意味ですが、我々はよくロングテールという言葉を使います。売上の80%を20%の品揃えで作り上げている8:2(通称 ニッパチ)の世界はどこの業界でもあると思います。アマゾンもそんなに変わりません。言っても7:3くらいです。それでも在庫を持ちます。1年に1個しか売れないものをアマゾンは在庫で持っています。それによってアマゾンというマーケットプレイスは、お客様が来たら商品がある。それだけではなく、どんな商品でも次の日に届けられる。それによりお客様の信頼を得て、お客様がリピートで来てくれる。そのために品揃えでもロングテールを追求しています。

 

売上構成と各サービス

 

アマゾンはあまり数字を公表しておらず、特に日本ではなかなか報道されません。とは言え米国でグローバルの年次決算書は出しておりますので、これを分析しました。売上の構成は主に北米売上、海外売上、AWSとなっております。AWSはクラウドサービスです。2019年の全体の売上高は28兆円です。対前年比では20%伸びており、その前の年ではそれぞれ30%、30%、27%と伸びています。28兆円になっても20~30%伸ばすということは、毎年数千億円以上伸びているということです。同じようなパーセンテージで成長させて行くのは非常に難しいのですが、未だにそれを成し続けています。アメリカでの販売額が17兆円あり、この数年間、アマゾンの「Growth」を支えています。アマゾンはアメリカに本社があるので当然と言えば当然ですが、あの大きい市場の中で、ある程度マーケットシェアを取ってもまだ伸び続けている、それは後ほど説明する企業文化があるからだと思っています。そしてその全体の28兆円の中の約半分が、アマゾンが独自に仕入れをして販売をする小売です。そして58%がマーケットプレイスと呼ばれる、第三者に販売をしてもらい平均10%程度の販売手数料を頂いている分が計上されています。ということはマーケットプレイスの売上を仮に含めると、アマゾンの売上は約40兆円になります。お客様が沢山いらっしゃるので、先程のイラストように、そこで売りたいという事業者も沢山いらしているということになります。

営業経費ですが、一番掛かっているのが物流費で14%になります。やはり当日にお届けするなどのサービスを展開すると、おのずとこのような形で販管費の中でも物流費が高く占めてしまいます。

そして営業利益ですが、これは10年前の09年はわずか4.6%。その前の08年くらいまでずっと赤字が続いておりましたが、この時から黒字が出てきました。しかしこれを投資に回し、さらに低価格の追求でお客様に還元しているので、売上が28兆円もありアメリカで圧倒的な地位を占めていますが、非常に利益率が少なくなっています。

続いてセグメント別に見ていきますが、全体における売上の69%がアメリカで、日本はわずか5.7%です。これは世界の他の国、インド、ブラジルなどの新しく展開を始めているので、日本以外の数字が大きくなっているためだとも思います。

アメリカ同様に日本のアマゾンがうまく行っているかと言うと、マーケットシェアの観点から見ると実はそうでもありません。それはアメリカというのは大きな国で数億人が暮らしていますが、その人口のかなりのパーセンテージの人たちは、車で30分かけてスーパーに行くなど、大きい土地の中で生活インフラが整っていない所でもあります。日本では都市部だろうが地方だろうがコンビニに歩いていけるなど、人口の7、8割が利便性の高い中で暮らしているのでEコマースの利便性を感じる限界値があると考えられます。日本の市場は、もともとアマゾンというeコマースが取り込もうとしていたマーケットのシェア、セグメントがアメリカに比べると小さく、伸びが弱いと個人的に分析しています。

そして、注目すべき点はサブスクリプションサービスです。サブスクと略して最近流行ってきていますが、昔はそんな言い方をしていませんでした。アマゾンプライムというメンバーシップ制度のことで、月額500円、年会費4900円をアマゾンに支払うと配送料が無料になったり、アマゾンプライムビデオが無料で見られたり、様々なサービスを受けることができます。日本では現在それによる収入も、年々大きくなってきています。

さらにAWSも伸びています。「Amazon Web Service」の略ですが、アマゾンは元々サーバーを米国に置き全世界に展開していました。ピークはクリスマスの時期で、仮にクリスマスに100万人のお客様が来たとしても、1月、2月では半分ぐらい半まで減ってしまいます。ピーク時の売上は通常の2倍くらいになりますので、それを支えるためには、そのピーク時に合わせたサーバーのキャパシティを持ってなければいけません。そこで普段余っているサーバーキャパシティをAWSというクラウドサービスにして他社に提供し始めました。素晴らしいイノベーションで革命を起こしたビジネスです。現在では売上の12.5%と非常に大きくなってきています。

また、短期的な売上よりも長期的な成長のための商品、サービスの開発を推進しており、基準も常に作り変えています。イノベーションや改革など、色々な新しいサービスを出していきますが、常にお客様の期待を上回る事を目指しています。その中にはひょっとするとその時点ではお客様は望んでない事もあるかもしれませんが1年後、2年後の需要を見越すサービスを作り上げる事も意識して行っています。この長期的という観点の元に生み出されたのが次の商品・サービスなどです。「Amazon Fresh」という青果の販売、「Fire TV」という小さなスティックをテレビにつなげれば、何百万という動画タイトルが無料で観られる商品、ボタンを押せばそれぞれ対応した商品が届く「Amazon Dash」、数千円のAIスピーカーで、話かければ色々な家電の操作をしてくれる「Amazon Echo」、さらに無人の店舗「Amazon Go」、こちらは実店舗内の商品を持ち出せば会計が済んでいるという新たな店舗形態です。また今アマゾンの倉庫では「Kiva」という装置が、商品をピックアップする人の所まで棚ごと持ってくるという物システム流や、さらに長年噂になっておきながら法律的に難しくなかなか実現されていない「Amazon Prime Air」、これは30分以内の所にはドローンが商品を運ぶサービスです。ついに8月にアメリカで実験の許可が出たのでサービスが展開され始めるようです。もう5年ほど開発を続けているものですが、そのようなイノベーション、そして長期ビジョンで開発をしています。

 

アマゾンの長期戦略

 

「長期戦略の要点」は97年に初めてジェフ・ベゾスが株主に対し手紙を出した際にされ記載、初心忘れるべからずということで、その後毎年の株主レターにこれを添付しています。そこでも、「お客様にFocusをする」と言っています。

ベゾスはウォールストリート出身ですが、そこを意識した短期的な利益を目的とした投資ではなく、長期的な視野で投資をする、株価を上げるために小細工はしないので、シェアホルダーの方たちに理解してくださいと告げています。短期利益を追う方は相手にしていません、とはっきり株主レターに書いています。そして投資効果を分析し、成功と失敗から、特に失敗から大いに学んでいます。例えば携帯電話を作りましたが、1年で止めました。それで何十億、何百億円という損失を出しましたが、トライアンドエラーを推奨する会社ですので、それから分析をして学習、改善をしていく訳です。さらにキュッシュフローを重視し、PLよりもCFを見ていきます。ですからなるべく早く回収をし、そのキャッシュ、産まれた物で再度投資をしていくということでもあります。

それから倹約です。ケチと言う意味では無く、お客様に必要なもの以外にはお金をかけないという倹約の精神です。アマゾンの役員はエコノミークラスを使っていますが、ベゾスくらいになるとプライベートジェットを持っているかもしれませんが。

そして先程の長期的な利益、資本管理の成長のバランスを考えれば、今はビジネスモデルをScaleさせるために成長を重要視しています。アマゾンではどうしてもScale、Scaleと言って、まずはこれを大きくしようと、それを25年も続けています。ではいつ利益回収に走るのかということもありますが、大きくすれば自ずと付いてくるだろうということです。新聞でもこのコロナ禍の数カ月間でアマゾンがアナウンスしたDecision(意思決定)は非常に早く、従業員を20万人雇用すると発表するなど、成長を重要視しています。

それから社員に対し、ものすごくFocusしています。優秀な社員の採用に継続してFocusし、ストック・オプションを多く付与して、やる気のある社員をどのように繋ぎ止めるかに成功が掛かっていると考え、重要視しています。ここで言うストック・オプションは、日本で言うものではなく、私が社員であったころ給料の半分は株でした。仮に100万円を現金で受け取り、残りの半分は株です。その株は1年で貰うのではなく、25万円ずつ4年間に別けて支給されます。それが毎年繰り返されるので、階段状にどんどん増えて行きます。さらにこの数年間でアマゾンの株は10倍以上になっているので、昔貰った株はそのまま残っていれば、社員も豊かになれる可能性があります。そういう形で優秀な社員を繋ぎ止めようと考えています。。これも97年に言っていることです。

生まれたキャッシュはどんどん投資していきましょう、と言うことで、まずテクノロジーに12.9%も割いています。なんと言ってもアマゾンはテクノロジーの会社ですから、検索などの研究に投資しています。マーケティングにもお金をかけます。そして一番投資をしているのが配送です。これはプライムという当日配送や時間指定、「Amazon Hub」と呼ばれるロッカー、お客様に近い場所に倉庫を建てるなど、配送も重要と見ています。

キャッシュフローを追求しているので、売上の割に利益が伸びていません。28兆円まで売上が大きくなってからも、利益がほとんど上がってない、もしくは上げていません。とにかく投資をしているので利益をあえて上げていないのです。

 

アマゾンの重要戦略

 

続いてアマゾンの重要戦略について説明をいたします。18年の株主レターでジェフ・ベゾスは、今の時点では次のビジネスが重要だ、と言っています。一つ目は「Amazon Prime」の戦略です。会員となったお客様が1年で止めるのではなく、1度の購入で止めずに、3ヶ月、半年、1年そして10年、さらに20年使い続けてくれる。そんな「Life Time Value」、一生ずっと使ってくれるValueを作り上げようという戦略です。実を言うとこのプライムは低価格にも関わらずこれだけのサービスを提供すると、プログラムとしては赤字です。ですからアマゾンに入ってもらったらプライムになってもらい、そのお客様が買い続けてくれない限りは、このプログラムは赤字から抜け出せません。それでもやり続けるというのはLTVの一つの目的です。このように様々な無料のプログラムを展開しております。

また、LTVの中で「Life Stage」と社内で呼ぶ、若いうちからの囲い込み狙いがあります。学生時代に初めてEメールを持ち、アルバイトなどを始めて収入を得てクレジットカードを持ちます。そこを狙って、例えば日本では本の業界では再販制度という法律があり、同じ本を値引きすることは許されていませんが、ポイントで学生だけに本をディスカウントしたり、6ヶ月間のお試し無料期間を設けたりしています。さらにその方にお子さんが産まれ、小さい頃から使っていただければ、お子さんが小学生、中学生、さらにその子が独立しても使っていただけるような、生活に入り込むために「Amazon Family」というプログラムも提供しています。オムツを15%引きで提供するなど、早期からのLife Stageへの入り込みを目指しているところもプライム戦略の一つです。

そして二つ目が売上の12.9%を占める大きなものになってきたAWSです。先程申し上げた余剰サーバーを開放したのが一つのきっかけですが、これも業界では画期的でした。サーバーは大体使用量に関わらず定量月額制だったとと思います。また、自前でサーバーを調達すると何千万円と掛かります。しかしこれは小さなお客様でも大きな会社でも、使った分だけ課金するという画期的で、一挙に市場を拡大したのがこの従量課金制というシステムです。それをさらに拡張性を持たせ、アマゾンのサーバーは、データ・ストレージや、セキュリティなど様々なオプションが付けられます。これらが非常に安定した収益になっています。アマゾンのお客様が一番Valueを感じている従量課金制ですが、お客様が増えれば増えるほど効率が良くなるので、アマゾンは毎年値段を下げています。これもお客様から長期的な信頼を得ていることの一つです。

三つ目がマーケットプレイスですが、58%は第三者による販売と申し上げましたが、これは05年から始めたものです。3つの柱に「品揃え」があり、業界で言うところのバイヤーと呼ばれている人達がいます。小売業界ではメーカーと卸し業者とで価格を決めたり、仕入れ値を決めたりなど、そんなふうに人間がやっていても世界中で一番の品揃えなんて絶対に達成できません。だったら最初から何十万、何百万種類の商品を販売している人たちに、アマゾンで売ってもらった方が早いということです。信頼によって来客数が増えたマーケットプレイスを開放し、第三者に入ってもらったわけです。それが58%まで伸びています。

しかし昨今悪評にもなっているのは偽物、模倣品、粗悪品です。これは実は私がマーケットプレイスを4年間率いた時代に、中国の販売事業者に一挙にドアを開放しました。中国製品にも安くて良いものは沢山あるので、それを開放しようと思い進めましたが、そこに紛れて色々な物が入り、それらが悪目立ちしてしまい、それによる代償も非常に大きくなっているという負の遺産でもあります。

これらの3つの重要戦略に、さらにプラス1ということで、私が勝手に付け足したのが次世代のAIスピーカーです。Artificial Intelligence、人工知能です。これ1台でエアコンを付けたり、テレビのチャンネルを変えたり、音楽をかけられたり、わからないことを調べてくれたり、様々な機能を持っています。それらも高額ではないので、ご家庭に普及することにより、アマゾンとお客様との接点が増えていきます。このようなテクノロジーを本当に安価で売れるのか、と私は詳しくないのですが、ひょっとしたら売っただけでは赤字だったかもしれません。このテクノロジーが他社にも認められ、フェラーリの車に、この「アレクサ」と呼ばれるアマゾンのAIが入り、デロンギのエスプレッソマシンにも組みこまれ、コーヒーのカプセルがなくなったらマシンに「頼んでおいて」と言うと届く、そのような機能を他にもパナソニックなど、各メーカーが入れ始めています。今ではテレビに付いているのが当たり前になりつつあるようです。

 

アマゾンジャパン

 

5,6年くらい前までアマゾンジャパンは税金を払ってないなど、新聞に書かれていました。しかし実はきちんと納税をしていますが、そういう説明をあまりしないのがアマゾンの良くないところです。

2016年にアマゾンジャパン合同会社に組織変更をしていますが、それまではアマゾンジャパン株式会社とアマゾンロジスティクス株式会社の2つがあり、さらに米国にサーバーがあるアメリカのアマゾンインターナショナルという会社が、日本のお客様に商品を販売しており、そこに対してコンサルティングやサービスを提供するのがアマゾンジャパンの社員で、そこで売上を立てていましたが、16年からは日本での約2兆円の売上全てをアマゾンジャパンに計上しております。

eコマース分野としてのシェアですが、日本市場の約16%をアマゾンジャパンが占めています。米国アマゾンは米国市場の49%です。日本市場での売上は約1兆6千億円とありますが、マーケットプレイスの販売事業者の売上をそのまま見ると約2兆5千億円になります。約半分の販売となるマーケットプレイス販売額の約10%のコミッションを売上として計上したものが、約1兆6千億円となります。

続いて配送のスピード、利便性に関することですが、日本では当日配送が78%、翌日を含めると95%のお客様が、アマゾンのサービスでは次の日には届くということになっておりまして、これがアマゾンのネットワークを担っています。この中には、「Fulfillment Center」と呼ばれる倉庫が全国にあり、お客様に対し迅速で正確なサービスを提供しています。

そしてパートナーとして佐川急便と元々組んでいましたが、事情があってヤマト運輸に移り、そこの組合問題で手を引かれ日本郵便に流れ、直近ではリスクが多いということでアマゾンロジスティクスと総称される複数の中小の運送会社抽象と組んでいます。加えて、個人事業主の方たちがスマホを使い、アマゾンの品物をお客様に届けて頂くUberEatsのような「Amazon Flex」という形態もあります。今ではヤマト運輸、日本郵便への依存率は半分以下に下がっており、アマゾン自からロジスティクスを拡大させています。これらのネットワークで当日のお急ぎ便や、日時指定便、「Amazon Hubと呼ぶロッカーなど、利便性の一つである配送オプションとして展開しています。

 

楽天とアマゾン

 

唐突ですが、ここでアマゾンと楽天市場を比較したいと思います。月間の訪問者数はほぼ同じく、伸べ約5千万人のお客様が来店されております。楽天で販売している方たちの売上が約2兆7千億円、アマゾンもほぼ同じです。楽天の伸びが弱く、来年には追いつきます。この数年間で一挙に追い上げました。アマゾンは半分の直販とマーケットプレイス、楽天は100%が出店事業者です。

物流についてですが、楽天はここが一番弱く、アマゾンが伸びた理由は自分たちで物流をコントロールしているので、迅速で正確なロジスティクスを提供できることです。そしてマーケットプレイスからの販売では、販売事業者から商品をアマゾンの倉庫に預かっており、日本のお客様が注文をするとアマゾンの商品と全く変わらないスピードと正確性で、そしてアマゾンの箱でお届けします。お客様からするとアマゾンで買おうがマーケットプレイスで買おうと、あまり物流の差異が生じません。アマゾンの出店者数は約20万店、楽天は約5万店です。

楽天が素晴らしいのはなんと言ってもポイント制度です。楽天トラベル、楽天証券、色々なシステムの中で楽天ポイントが流用できる、これが非常に大きく感じます。また、アマゾンにはサブスクモデルのプライムがありますが、楽天にはありません。

 

行動指針、規範の14項目

 

次に企業文化としてどういうものを作り上げてきたのか、どのように人を育成しているのか話したいと思います。

『Our Leadership Principles』と言う行動指針、規範がアマゾンには14項目あります。日本で言うリーダーは、マネージャーなどのイメージになりますが、アマゾンでは全社員をリーダーと呼んでいます。マネージャーは役職であり管理をイメージしますが、リーダーはプロジェクトや、カルチャー、仕事をリードしていく人です。そこに役職は関係ないので、皆さん全社員がリーダーのように振る舞ってください、それが「Leadership Principles」で、アマゾンでは全員がリーダーですと言っています。

行動の原点や、人を採用するとき、ビジネスの決断をするときのDecision(意思決定)の判断軸に使います。迷ったときに立ち返り、日々の仕事や評価、昇進などあらゆる場面での判断軸として使われています。

14項目には重要度の優劣はありませんが、強いて言うならば、「Customer Obsession」と称するお客様中心主義が始めにきて、最後は「Deliver Results」、結果を出しましょう、になります。

今日は14の中から私が特に重要だと思うものを説明します。

まずは1番目の『Customer Obsession』は、日本語でいうと顧客中心の判断基準は妥協するなということです。リーダーはお客様を起点に考え行動します。顧客から信頼を獲得し、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合にも注意を払いますが、何よりも顧客を中心に考えることにこだわります。私も10年間働いた中で方向性を見誤ると、「これはお客様のことをどう考えているのか、利益中心に考えていないか、お客様のリアクションはどうか、それらの部分を分析したか」ということで突き返したり突き返されたりしていました。14項目は全て簡単な英語なので、英語の意味さえわかってしまえば長々と説明することもなく、社員全員がこれを良い意味での洗脳教育によって日々の様々な場面で使っています。私はアマゾンで4社目ですが、日本の会社でも壁に大きく「お客様中心主義」などと掲げて満足してしまい、普段から従業員に徹底して教育しているか、日々使用していたかというと、その様なことはありませんでした。しかしアマゾンでは上から末端まで14項目が会話の中で日々使われています。その一つが『Customer Obsession』です。

『Ownership』は、「それは私の仕事ではない」を禁句とすることです。リーダーは長期的な視野で考え、短期的な結果のために長期的な価値を犠牲にしません、リーダーは自分のチームだけではなく、会社全体のために行動します。オーナーシップは日本語でも使うので難しい言葉ではありません。外資系はイメージとして自分の仕事がはっきりしていて、「私の仕事ではない」などと言っているかと思いますが、日本的にチーム全員で一丸となろうと考えています。

アマゾンは社員教育の中で14項目を全部覚えさせているので、オーナーシップと言えば単純に「自分の仕事ではない」と言わない、会社全体のために、ということが浸透しています。ちなみに日本語の部分は、私も含めて日本の経営層が翻訳したものです。ただしタイトルには正式な翻訳がなく、これら日本語のタイトルは私が付けたものです。

『Invent and Simplify』は常に創造性とシンプルさを求めることです。リーダーはチームにイノベーションとインベンションを求める、常にシンプルな方法を模索します、リーダーは状況の変化に注意を払い、あらゆるところから新しいアイディアを探し出します。それは自分たちが産み出したものだけには限りません、私達は新しいアイディアを実行する上で、長期間に渡り外部に誤解されうることも受け入れます。シンプルと創造、革新は当然ですが、最後に「Invent~」では説明できない部分が付け加えられています。時には間違いや前のめりなどで顧客から誤解されることもありますが、お客様の想像を遥かに超えるサービスを提供しようと考えています。一つの単語の裏には、非常に深い意味があります。

『Are Right, A Lot』は英語として難解ですが、多くのことに対して正しい判断を下すことです。こんな意味に取れる単語には思えませんが、英語では補足説明がされています。リーダーは多くの場合、正しい判断を行います。リーダーは強い判断力を持ち、経験に裏打ちされた直感を備えています。アマゾンはデータ重視と言う割に直感力も大切にしていて、理論を100%固めるためにデータ分析をして戦略立案するならば、自分たちの経験値や直感を信じて70%の仮説で走り出しなさい、としています。そしてアマゾンのリーダーは、上に上がれば上がるほど早く正しい判断が求められます。私は部下にも朝令暮改という言葉を使っていました。間違いを認められない経営者が一番ダメで、良い経営者は直感で次々と決断をしていく中で、間違えた時にミスを認めて方向修正ができる、それが素晴らしい経営者で、私もそうありたいと常に部下に言っていました。