ある会社でのインタビューの一部を紹介Part2

◆マネジメント力があれば業種はあまり関係ない

質問者:星さんのご経歴を拝見すると、会社や業界に縛られない、何か信念というかそういったものを感じるのですが、ご自身で意識されていることはありますか。

 

星さん:1社目のJUKIには15年くらいいて、そのほとんどを海外の事業所を転々として過ごしました。

駐在先では、5人くらいの事務所を大きくしたり、新しい国に行って会社を立ち上げをしたりする仕事が多かったです。

25歳くらいから事務所長や現地法人社長などのトップをはる仕事をしていました。

最初の転職でミスミにディレクターとして採用された時に、マネジメントの経験が評価されて、自分のバリューはマネジメントだと分かりました。

 

そして、マネジメント力があれば業種はなんであろうとあまり関係がないと気づき、いろいろ転職をしてきました。

転職をすることは、自身を新たな周りと比較し再認識するなどすごく意味があると思っています。

働いてる会社に縛られないという意味では、会社と対等の立場で、会社と給料交渉できるぐらいの、自分のバリューを持つことが重要だと思います。

会社にしがみつかず、自分のバリューをきちんと提供して評価してくれる会社で働き、評価してもらえないのだったら、さらにその足りないスキルを身に着ける、もしくは正当な不満が残れば転職する。

私自身、この15年ぐらいはそうしてきましたね。

 

1社目のJUKIでの、インド駐在時代の星さん。(心なしか漂うインド感…これはこれでカッコイイ)

 

◆上司の仕事は仕事を捨てさせること。部下が気持ちよく働ける環境をつくる。

質問者:休日もお仕事することはないのですか?

 

星さん:しないとは言わないですが、なるべくしないです。

昔は、徹夜もしていましたよ。

でも、Amazonに入って米国式のパフォーマンスの出し方、Work Life Balanceの考え方を知り、会社に遅くまで残っていることは、時間数が仕事の尺度になっていて決していいことじゃない、と思うようになりました。

 

質問者:割と最近ですね。

 

星さん:10年くらい前ですね。

それまでは、残念なことに結果のみならず時間数で仕事をしていました。

それもメカニズムや仕組みを作ることで生産性を上げて解決できるんですよね。

あとは優先順位をつけて、やらない仕事はやらない。

上司の役目として、仕事を捨てさせてあげるというのは重要ですね。

「これもやって、あれもやって」ではなく、「これをやって、でも、あれはやらなくていい。何故ならばこういう理由でこっちが重要だから」と伝えます。それは、気をつけてることですね。

 

質問者:私もそれには気をつけています。

「どれを捨てたらいいですか?」って聞くようにしています。

 

星さん:そうですね、部下から言うのも重要なんですが、上司が気がついてあげなきゃいけない。

ORDでは、若い人がどんどん昇進して、部下を持ちます。

これはいいことではあるけれども、経験があまりない人がいきなり上に立ってしまうと、部下が大変になり不幸になります。

ある程度の研修や経験をさせてからでないと、チーム力が弱るだけでいいことはないと思います。

 

質問者:星さんもはじめからマネジメントが得意だったわけではないんですか?

 

星さん:当然、私も最初はうまくできなかったですよ。

色々な経験をしたので、上司という役割が上下からの色々なプレッシャーの中で結果を出さなければならないので難しい、辛いことも知っています。

でも「自分と同じレベルの仕事をしろ」「自分が残業して徹夜するので部下もしろ」というのは、昭和の話です。

今は令和ですからね。

これは特別なことではないのですが、上司は部下が働きやすい環境を整えるのが一番の役割、仕事だと考えています。

自分1人で仕事はできないからチームがあって、部下がいて、会社があるんですよね。

つまり上司のパフォーマンスは、自分以外のチーム、部下の仕事による成果の積み上げです。

 

 

◆コミュニケーションには細心の注意を払っていた

質問者:「自分が言ったことが、さざなみのように広がって人を動かしているのが面白い」と仰っていましたが(※前編にて)、その境地になられたのはいつ頃でしょうか。

最初のうちは、自分が言ったことが影響して作用しちゃうと怖いかと思うのですが。

 

星さん:怖いと感じることは、もちろんありました。

2社目のミスミでは社長のポジションで、タイ駐在当初は、社員が100人位いました。

私は100人の社員の顔と名前が一致しないですが、社員は全員私のことを知っていて、見ているんですよね。

当然、私が言った一言は伝わりますし、不必要に伝わってしまうことや、自分の意図としていない形で伝わってしまうこともあります。

それが原因で、勘違いや嫌な思いをさせてしまい、社員が会社を辞めたり、ストを起こしてしまったりもしました。

Amazon入社後も、自分では良かれと思って言ったことで勘違いをされたり、単純に失言したりしたときもあって失敗をしたりしたので、言動にはものすごい気をつけましたね。

 

そのため、なるべく社員とは飲みに行かないようにしました。

飲みに行くと気が大きくなって、余計なことを言いやすいです。

意図して言っていないことも、ハラスメントと感じる人もいます。

失言が許されない立場だということを認識することがすごく重要だと思っていたので、誘われてもほとんど行かなかったですね。

 

質問者:そんな苦労があったんですね。コミュニケーションは、どうされていたんですか?

 

星さん:飲みに行かないとコミュニケーションが取れないとか言うのはありえないと思います。

四半期ごとのオールハンズ(全社集会)や週1回全社員に向けてメッセージレターを出したり、オフィスをグルグル回って声をかけたり、定期的に少人数でランチミーティングを行ったり。

典型的なオーソドックスなやり方ですが、なるべく自分の顔を見せるようにしていました。

それらをアレンジしてくれる秘書という役割が私にとっては非常に重要な存在で、秘書なしでは仕事ができなかったと言っても過言ではありません。

全員のことを覚えることは難しいのですが、社員は自分のことを当然知ってるから、その自覚を持って発言、行動することがすごく重要です。

 

質問者:そうすると、孤独ですよね。

 

星さん:組織の長になることは、孤独というか、打ち明けられる人がなかなかいないですよね。

直属の部下にはコミュニケーションの頻度も高いので信頼度を高めることによって本音も言えるのですが、それができないメンバーには気をつけないと。

直接面と向かってダイレクトに言えれば、必要に応じて補足説明できますが、また聞くとなると尾ひれがついて「あのとき、星さんはあんなひどいこと言ってたよ」みたいな話になっちゃうので。

不必要な発言はしないように心がけています。

 

2社目のミスミでのタイ駐在時代。3列目中央の白の服を着ているのが星さん。

 

◆ドキュメントは「ナラティブ」を意識する

星さん:戦略を作る時やビジネスプランを立てる時には、間違って伝わらないよう口頭だけではなくドキュメントの文章にも気をつけますね。

 

質問者:それは、いつぐらいからですか?

 

星さん:ミスミも戦略思考の会社で、予算・戦略立案プロセスにおけるドキュメントに対しては厳しかったですが、特にAmazonですね。

Amazonは、戦略立案とか報告書も含めて、文章を書くことがものすごく多い会社でした。

 

質問者:文章の形が独特ですよね。文章が全部繋がってるみたいなイメージがあります。

 

星さん:独特ですね。英語で「ナラティブ」と言うのですが、要するに「物語」という意味です。

上から下まで読んだ時に、物語みたいなストーリーの中で戦略を理解できる、もしくは報告を理解できるようにしなければいけないんです。

簡単に見つかってしまうような誤字があったり、スプレッドシート上の数字のミスがあったりすると、そのドキュメント全体の信頼性が一挙に失われますよね。

せっかくいいことを考えて書いてるので、安易なミスで信頼を失わないように、物語的に戦略が正しく伝わるかどうか事前に確認やチェックを何度もするのです。

 

今では、ORDでも何度も同様のドキュメントを作成し、提案、上程していますが、このやり方を染みつかせようとしてやってるわけじゃないです。

ただ、意味があるものだと共感してくれる人が増えている、受け入れてもらいだしていると感じています。

 

 

◆キャリアは巡り合わせ。そのなかで自分のバリューをつくる

質問者:20代前半からリーダーとして活躍されていたとのことですが、最初からリーダーとしてスタートされたのでしょうか?

 

星さん:当然、最初は下っ端からでしたよ。

振り返ってみると、当時1000億円ぐらいのアパレル機器メーカーである上場企業に入社したら、売り上げの70%は海外からによるもの。

その中でも旧ソ連の5ヵ年計画における生産材購買の需要があったり、アメリカやヨーロッパ主体だったアパレル生産地が、安い生産コストの東欧、東南アジアやインドに移動していく真っ只中でした。

若い人にも駐在のチャンスが巡り、たまたま僕がそのチャンスを得て行ったら、早い時期にトップになれたんです。

丁度いいサイズの会社に入ったからチャンスが早く巡ってきたからで、例えば大手商社に入っていたら、プラス10年はかかったと思います。

ただこれは結果論であって、就職する時からそこまで計算していたわけではありません。

 

質問者:なるほど、巡り合わせですね。

 

星さん:そういう巡り合わせです。

僕のキャリアプランはもともとあったわけではなく、振り返ったらそうだったのであって、プランニングはそう簡単じゃないと思っています。

ただ目の前のチャンスを見過ごすのではなく、時には無理してでも積極的に取りに行くこと、会社と対等になること、自分のバリューを自分で理解し、そのバリューを強みとしていくことは、重要だと思います。

人間は比較しがちなので、「この人より俺、私ってイケてないな」とか「ショックだな」みたいに感じることもあると思います。

でも一方で、「あれっ?結構、うまくいっちゃうな、俺、私ってすごいな!」と思うことがあったらいいですし、それが自信となりバリューになりますよね。

 

バリューを高くするやり方は、いいところをさらに強くしていく方法と、自分が人と比較して足りないというところを補足していく方法と2つあると思います。

チャンスをタイミングよくものにする要領の良さも必要ですが、できる限り自分のスキルを磨き、バリューを高くしていった方が、その努力などの投資に対するリターン、すなわち役職、管掌範囲、報酬などは大きくなります。

 

質問者:星さんでも、「あの人に比べたイケけてないな」みたいに感じることあるんですか?

 

星さん:ありますよ!

最初の会社では、海外を転々としていても、15年間ほぼ似たような本社メンバーと仕事をしていたので、井の中の蛙で分からなかったんですが、転職して初めて「こんなすごい人がいるのかよ!」と思いました。

 

質問者:それは、どういった方に感じるのですか。

 

星さん:ミスミに転職した時の驚きが大きかったですが、例えば当時は戦略立案をするプロセス、能力が不足していたので、その辺りができる人ですね。

また、現状調査方法や分析方法や、相手を納得させる、説得するドキュメント作成、プレゼンテーションスキルが圧倒的に弱かったと感じていました。

でも、その後の4年で努力して、負けないぐらい身につけました。

 

質問者:さすが、すごいですね!

今日は、いいお話をたくさん伺えました。

ありがとうございました!

 

星さん:

とんでもないです。