MoneyForwardでの書籍紹介第三弾

 

https://media.moneyforward.com/articles/7706/summar

投資に関する知識は学んだけれど、実際に投資をして経験を積み上げていくにはどうすべきか、悩んでいる初心者の方もいるでしょう。

そこで、アマゾンジャパン元経営会議メンバーの星 健一氏の著書『amazonが成長し続けるための「破壊的思考」』(扶桑社)より、一部を抜粋・編集してアマゾン社内の独特なルールを紹介します。

企画書は「仮想プレスリリース」

ドキュメント作成に関する社内文化にも、アマゾンには独特のルールがある。

なかでも「PR/FAQ55」のルールはユニークだ。「PR/FAQ」とはすなわち、Press Release(プレスリリース)とFrequent Asked Questions(頻繁に尋ねられる質問)のことである。

「プレスリリース」といえば、何らかのサービスがローンチ(開始)する際、文字通りプレス(メディアの記者)などに向けて発表するドキュメントのことである。でも、アマゾンでは新規のプロジェクトを社内で提案する時に、まずは将来的にそのサービスなり事業がローンチしたことを想定した仮想プレスリリースを書くことが求められるのだ。

リリースの内容にも厳格なルールがある。まず「どんな顧客にとってどんなメリットがあるのか」を明示しなければならない。新規プロジェクトの企画書は、得てして提案者側の都合のいい論理で組み立てられる。でも、アマゾンにおける新規プロジェクト提案は、顧客目線のプレスリリース1枚で、その価値をアピールする必要がある。

サービスなどの名称、どんなことで困っている誰に向けて、このサービスを提供することでどんなメリットをもたらすことができるのか。プレスリリースは必ずそのポイントを踏まえて作成するのがルールとなっているのである。なぜならば、このプレスリリースは「Working backwards from Customers」(顧客の立場になって行動する)というアマゾンの考え方の一つのツールになっているからだ。

「FAQ」セクションでは、外部からと内部から想定される質問の両方を記載する。外部向けFAQとは、報道関係者やお客様からの質問を想定したものだ。例えば、「この商品はどこで購入できますか?」とか、「この商品が壊れた場合はどうすればいいですか?」などだ。

社内向けFAQは、自身のチームメンバーや経営陣が尋ねる質問である。例えば、「この商品を2万円で販売する際に粗利益率を30%確保するためにはどうすればいいのか?」「この商品を開発するために、何人の開発エンジニアを新たに雇用する必要があるのか?」などである。

プレスリリースは顧客の体験の象徴的な部分を読者に伝え、FAQでは顧客の体験の詳細と、その製品やサービスを開発するためにどれだけのコストがかかり、困難さの度合いなどを徹底的に評価するのである。よって、担当チームはPR/FAQを書き上げていく過程で、事業部長などのシニアリーダーと何回もレビューミーティングを繰り返し、議論し、アイデアを洗練させていくのである。

プロジェクトの立案時、まず顧客目線のPR/FAQから作成することには「ゴールが明確になる」というメリットがある。実際に仕事を進める中で、仕入れの都合や自分たちの手間暇を考慮して「ここは我慢しておこう」といった妥協が生じることはありがちだ。しかし、プレスリリースに明記した顧客のメリットを損なうことがあってはならないという「軸」が定まる効果がある。

もう一つ重要なのがそのルールである。PR/FAQでは、書き手が長い説明文や図表を挿入したりと書き手の視点で自分の仕事内容をすべて説明するだけで、結果、何が重要で何が重要でないかという難しい判断を避けてしまうことがある。それを防止するためのルールがあり、プレスリリースは1ページ以内、FAQは5ページ以内と強制することにより無駄な内容を省き、本質的な部分にフォーカスをさせるのである。

参考例として私が最後に統括したB2BモデルであるAmazon Businessのプレスリリースを見てみよう。

なお、FAQについては社内ドキュメントであるため、割愛する。

Amazon、法人・個人事業主向け購買専用サイトAmazon Businessを日本でサービス開始

《Amazonが提供する品揃え、価格、利便性に加え、 オフィス、工場、大学、研究所及び、公的機関などのあらゆる購買ニーズに応える新しいサービス》《請求書払い、承認ルール設定、税抜き価格表示、購買分析・レポート機能などを導入》《無料のAmazon Businessアカウントにご登録いただいた法人・個人事業主のお客様は「期間限定配送特典」や「法人価格」「数量割引」のご利用で時間とコストの削減が可能に》

2017年9月20日

総合オンラインストアamazon.co.jp(以下、Amazon)は本日9月20日、中小企業からグローバル企業、大学や学校などの教育研究機関、公的機関など、あらゆる規模、業態の購買ニーズに応える新しい法人・個人事業主のお客様向け購買専用サイト、Amazon Business(www.amazon.co.jp/business)のサービス開始を発表いたしました。

Amazon Businessでは、請求書払いの他、自社の購買傾向や履歴を可視化し、コストを管理できる購買分析・レポート機能など、企業購買に必要な多くの機能をご提供します。また、Amazon Businessのお客様向けの法人価格や数量割引、期間限定配送特典をご利用いただけます。従来のAmazonの品揃え、価格、利便性に加え、これらの全てのサービスや機能をAmazon Businessでご提供します。

Amazon Businessでは、2億種類以上の品揃えの中から商品を簡単に見つけることができます。オフィスで必要な商品として、ノートPC、プリンター、ネットワーク機器、ストレージ、文房具、家具など、メンテナンス・リペア・オペレーションズ(MRO)向けとして、100万点を超える電動工具、産業用品および安全・保護用品などを取り揃えています。自動車関連の事業者向けには、タイヤ、純正部品、塗料、自動車アクセサリーなど、500万点を超えるカー用品を、さらに、飲食店向けには、テーブルウェア、バー用品、清掃用品などのキッチン用品や調理器具を含め、幅広い品揃えの商品を取り揃えています。そして、大学や研究機関のお客様は、顕微鏡などの科学・実験用品を数万点の品揃えの中からお買い求めいただけます。

Amazon Business事業本部 事業本部長 星健一は、次のように述べています。

「Amazon Businessを日本の企業のお客様にご利用いただけるようになり、非常にうれしく思っております。個人事業主、中小企業の購買担当者、グローバル企業の調達責任者など、多くのお客様のビジネス購買ニーズにお応えできるよう、豊富な品揃えとサービスを提供しております。Amazonはお客様の声を聞き、ビジネス購買がさらに簡単に、そして便利になるような機能を追加いたしました。その新機能と2億種類を超える品揃えに加えて、期間限定配送特典として、無料のお急ぎ便を使い翌日までにお届けいたします。使い慣れたAmazonをAmazon Businessでも、是非、ご利用ください」

また国立大学法人大阪大学 財務部長 佐藤規朗氏は、次のように述べています。

「日本の大学としては最初に、Amazon Businessとのシステム連携をすることとしました。Amazon Businessの利用により法人価格での購買が可能となることと併せて、本学の購買システムとの連携によって、購買・会計業務の効率化による経費の削減、及び購買の見える化が促進されるものと期待しております」

【Amazon Businessの主な機能】

期間限定配送特典:Amazon Businessにご登録いただいた日本に拠点を置く全てのお客様は、お急ぎ便・お届け日時指定便を無料でご利用いただけます。

請求書払い:すでにAmazonで提供されているクレジットカード払いや代金引換などの通常の支払方法に加え、月末締の請求書払いが可能です。

承認ルール設定:支出を管理して可視化するため、承認権限や下限金額など、承認ルールを設定できます。

見積書作成:社内での事前承認用に、PDFもしくは印刷した見積書で、価格と条件を簡単に確認が可能です。

購買分析・レポート:購入日時、購入品目、部門、購入方法など様々な切り口でレポート作成、分析ができ、さらにお客様ごとの用途に合わせてカスタマイズできます。

税抜き価格表示:消費税込み価格と消費税抜きの価格が商品ページ、購入ページ、及び請求書と領収書に表示されます。

購買システム連携:SAP Ariba およびソフトバンク コマース&サービス(株)のパーチェスワン購買クラウドサービスをはじめとする購買システムと連携が可能です。

Amazon Businessでは、今までと同様にお客様の期待にお応えします。

魅力的な価格:Amazon Businessでは多くの販売事業者が商品を販売しており、そして、最適な価格を見つけることができます。さらに、一部の商品では法人価格や数量割引が適用されます。

豊富な品揃え:2億種類以上の豊富な品揃えに加えて法人限定商品も取り揃えています。

利便性に優れた購買:一つの商品に対する複数販売事業者の販売価格が表示され簡単に価格を比較できます。また、Amazon Businessはモバイルに最適化された購買体験を提供しています。さらに、様々な法人のお客様に対応できるよう、日本語、英語、中国語にも対応しています。

詳しい商品情報:商品ページには、高品質の商品画像、サイズ、使用方法などの詳細情報、取り扱い方法などの動画、カスタマーレビューが掲載されています。

Amazon Businessカスタマーサポート:カスタマーサービスでは、Amazon Businessの専任スタッフが電話、メール、チャットで対応します(年中無休、9:00~18:00)

Amazon Businessは、米国では2015年4月に開始され、現在の法人顧客数は百万社以上となりました。また、2016年12月にはドイツ、2017年4月には英国で開始されました。


このプレスリリースは実際に2017年9月にサービスが開始された時に発表されたものだ。しかしながら、この内容は多少の改善、変更はあるものの、ほとんどが2015年当時のプランニング段階で作成されているものだ。

冒頭で「中小企業からグローバル企業、大学や学校などの教育研究機関、公的機関など、あらゆる規模、業態の購買ニーズ」と、どのような顧客が対象かが明確にされ、次にサービスの内容、そして、顧客の声として大学の購買部が何を期待しているのかという顧客の立場によるコメントが入り、さらに、このサービスで提供される具体的な機能が記載されている。

これを提案段階で作成し、プロダクトマネージャー、エンジニアなどがそれを実現するためにシステム構造の設計に入っていくのである。

「パワーポイント」使用禁止の理由

アマゾンでの社内プレゼンテーションで、パワーポイントの使用が禁止されているのは、かなり有名な話になってきた。「パワポ禁止令」を発令したのは、他ならぬジェフ・ベゾスだ。ベゾスがパワポを禁止した理由については、社内でもさまざまな逸話が語り継がれている。なかでも、私がさもありなんと思っているのが、外部コンサルティング会社にまつわるエピソードだ。

アマゾンがスタートした当初、サービスの骨格を固めるためにベゾスは外部のコンサル会社に提案を依頼した。彼らは当然気合いを入れたパワポの資料を作成してプレゼンテーションを行ったのだが、手の込んだ紙芝居のようなビジュアルに惑わされるばかりで具体性がなく、何を提案したいのかよくわからないとベゾスが激怒したというものだ。

実際、パワポのプレゼン資料は要点だけを箇条書きにして詳細は口頭だけで説明したり、見栄えのいい、そして都合のいいグラフなどを多用して提案のメリットや効果を強調することが多い。また、アニメーションなどを使い、みてくれに時間をかけることがある。

でも、後から資料を見返しても肝心なことが口頭説明だけで書かれておらず、〝なんだかよくわからない〟ということになりがちだ。ベゾスはもちろん、ヒエラルキーが明確で多くの案件のスピーディな決断を求められているアマゾンのリーダーにとって、面倒なことこの上ない。

作成者の主観が過剰に入り込むという理由で、グラフの使用も好まれない。シンプルな棒グラフひとつでも、軸のスケールや幅を変えるだけで印象が大きく変わってしまう。対象を比較しづらい円グラフはほとんど使用されることがないし、無意味な装飾を施した3Dのグラフなど言語同断である。

ビジネスドキュメントは「1ページャー」と「6ページャー」

アマゾン社内のビジネスドキュメントは、「Narrative(ナラティブ=物語)」と呼ばれるA4で1ページの「1ページャー」、もしくは6ページの「6ページャー」のメモのどちらかにまとめることになっている。

報告書など社内で提出するほとんどのドキュメントは1ページで簡潔にまとめる。年度ごとの予算であったり、大きなプロジェクト提案などは6ページにまとめるのが基本的なルールだ。ドキュメントの内容はどんなトピック(論ずるテーマ)かを示す見出しと、トピックを説明する文章のみ。詳細な数字や、補足情報が必要な場合は別途 「Appendix」(添付資料)として、枚数にはカウントしない。

6ページャーが提案される会議では、冒頭のおよそ15~20分間、まずは全員がドキュメントを読むための時間にあてられる。静まったミーティングルームで参加者が黙々とドキュメントを読む雰囲気はかなり緊張感が漂ただよっている。

その後、基本的にはページごとにドキュメントの提案者であるオーナーが出席者からの質問に答えながら、さまざまなフィードバック、アドバイスを通して議論を重ねていく。当然「Dive deep」(深掘り)の質問が相次ぐことがほとんどなので、提案者にはどんな質問にも理論的な回答ができるようにプロジェクトの細部まで把握、理解をするのと同時に、提案内容に共感を得るための説明能力や説得力が求められることになる。

この「1ページャー」「6ページャー」ルールが社内で徹底されるようになった2009年頃の当初は、A4で6ページのドキュメントはそれなりの文章量とはなるが、大がかりな予算案やプロジェクト提案をまとめるには少々ページ数が足りないと感じることがあった。まして1ページにまとめるためには、余計なエピソードや言い逃れが入り込む余地はない。導入当初は姑息にも文字サイズをルールであるフォントサイズ「11 」より小さくしたり、行間をせまくしたりしてスペースを稼いだものだ。

でも、ルールに則ったドキュメント作成が習慣になってくるにつれ、定められたフォーマットに従って論旨を構築する作業には、無駄を削ぎ落とし自らの思考を整理する効果があることを実感できた

amazonが成長し続けるための「破壊的思考」

著者:星 健一

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アマゾンジャパンの創成期から経営に携わった男が「成功の秘密」を解き明かす!!
amazonがコロナ禍の2年で19兆円も売上を伸ばした理由とは?
コロナ禍でアマゾンは大きく売上を伸ばしました。2020年は米国の売上が対前年比+38%、日本では+25%と大きく伸び、前年の2019年はそれぞれ+21%、+14%の伸びにとどまっていたので高い伸びだったことがわかります。日々の買い物や外食が制限されているなか、人々の生活を支え売上を拡大させただけでなく、アマゾンがその間も数々のイノベーションで顧客への新たなサービスを展開してきた結果と言えるでしょう。
アマゾンのビジネスモデル、経営手法、企業文化にはイノベーションをもたらすためのさまざまな「基準」が存在します。その中でも興味深いのが「破壊的に考えろ」というもの。
本書では、アマゾンジャパンの創成期から経営に携わった筆者が、その「破壊的思考」はもとより「リーダーシップ・プリンシプル」など、アマゾンが成長してきた「考え方」などを詳しく紹介します。eコマースに関心がある人はもちろん、多くのビジネスに直接的に役立つ思考法や手段が満載です。