週刊SPA!さんに、第2回目の連載記事を掲載いただきました。

「売上目標」だけを現場に押しつける上司がダメな理由/アマゾン元幹部に聞く

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200206-01640811-sspa-soci

「売上目標」だけを現場に押しつける上司がダメな理由/アマゾン元幹部に聞く

2/6(木) 8:51配信

週刊SPA!

 気がつけば、世界の時価総額ランキング上位は、アメリカと中国のIT産業などに独占されている。たとえばAmazonは世界5位(2019年12月末)。日本企業は、トヨタ自動車が41位で初めて顔を出す。

世界を制覇した海外企業と、凋落した日本企業を分けたものは一体、何なのか? アマゾンジャパン元経営会議メンバーで、『amazonの絶対思考』の著者である星健一さんに、話を聞いた。

売上・利益は”結果”であって、コントロールできない

――前回の記事では、「失敗を恐れて低い目標しか立てない日本企業は、”チマチマ病”に陥っている」というお話でした。でも、失敗を恐れずに高い目標ばかり掲げられても、正直、現場はつらいです。

星健一氏(以下、星):わかります。日本企業はまず「売上」「利益」という絶対的な目標数字があり、それを達成するために何が必要か、と考える企業が多いのではないでしょうか。
でも、アマゾンは考え方が逆なんです。アマゾンでは売上と利益という目標を「アウトプット」と呼び、あくまでも「結果」として見ています。

そもそも、売上を完全にコントロールすることなんてできません。たとえば、急に中国の輸入税が上がって商品が高くなってお客さんが買わなくなった。あるいは、国内の景況が悪くなって、人々の収入が減ってモノを買わなくなった。暖冬で冬物アパレルや季節家電の需要が小さくなった。いろいろな理由がありますから。

――コントロールできないですよね!数字は結果に過ぎない、と。

星:一方で、たとえば、お客さんの数を100万人から150万人にするとか、品揃えを1000万点から1200万点にするとか、顧客の利便性を高めるために新たなるサービスをいつ開始するとか、自分たちの努力でできる行動を「インプット」と呼びます。インプットが積み上がり、掛け合わさり、アウトプットが出るわけです。だから、インプットにものすごくフォーカスをするんです。

週次、月次、四半期のレビューでも、売上・利益よりも「インプットが計画どおりに行かないのはなぜなのか?」に注目します。人が足りないのか? 無駄なことはやっていないか? 自動化はできているのか? 想定と何が違ってきているのか? こうした話をして、どんどん改善していきます。

現場社員の目標は「インプット=努力でできる行動」

――でも、改善しても目標にいかないときもありますよね?

星:もちろん。でも、インプットはすべてできているのに、アウトプットの目標に届かなければ、それは仕方がない。
自分たちでコントロールができないものが、売上や利益。でも、インプットはすべて自分たちがコミットしたもので、できること。それが予算のベースになっているんです。

――なるほど。上から根拠のない売上・利益目標が降りてきて、四苦八苦している日本のビジネスマンは少なくありません。

星:それはもちろん、アマゾンでもあるんですよ。私は経営層にいたので、「売り上げがいってない!」「利益はどうだ!?」とトップから数字を詰められることもありました。
でも、それを私が同じように、部下に全てを伝えることはしません。現場にとって、顧客のエクスペリエンス(体験)を向上させるインプットを重要視している中、そんなことは、二の次ですから。

――うちの上司に聞かせたい!と思う読者が多いはずです。

星:会社が継続するためには、利益と売上を出さなければいけません。それは絶対です。存続できませんから。しかし、数字を細かく見る人と、ビジネスの本質にフォーカスする人を完全に分けているんですね。

ビジネスの本質とはインプットです。インプットとは、アマゾンでは、「何がお客さんにメリットがあるか」を突き詰めること。どちらかというと、売上を達成するためにではなく、インプットを積み重ねたらこういう売上になるという感じで考えているんです。

――そこも日本企業と大きく違いますね。

星:トップダウンで「100億円を110億円にしなさい」という数字がおりてきて、根拠もわからず、とにかく「10億円を気合いと根性で頑張って作り出せ」とかね。私も経験があるのでわかります。でも、それが決して悪いわけではありません。トップが決めることに下が動くというのは、組織マネジメントの形のひとつですから。
ただ、数字のロジックは後付けでもいいので必要です。でないと、振り返り、検証が出来なくなります。

社員の個人目標に求められる条件「SMART」

――アマゾンでは、社員ひとりひとりも、予算や目標があるんですか?

星:毎年4月に年間目標を立てます。会社全体の目標、各国法人の目標、事業部ごとの目標があり、それをブレイクダウンしていき個人の目標となります。こうした数字のターゲットだけでなく、自分のリーダーシップや語学力などのスキルなどについても目標を立てますね。

――そのあたりはあまり、変わらないですね。

星:特徴的なのは、目標を立てるときに、「SMART」が求められるということでしょうか。
Sは「Specific」具体的であること。
Mは「Measurable」測定可能であること。
Aは「Achievable」できもしない目標ではなく、自分の力を120%出すことで達成できるもの。
Rは「Relevant」会社およびチームの目標に関連していること。
Tの「Time Bound」は時間軸がはっきりしていること。ダラダラやるのではなく、期限を明確にする。
このSMARTにもとづいて、いくつかの個人目標を立てるんです。

――その目標を達成できなかったら、どうなるんですか? 失敗は許される?

星:先ほど、結果が失敗だったから飛ばされることはない、と言いましたが、パフォーマンスに対しては、非常に厳しいです。
ただ、目標を達成できなかったから、すぐにダメというわけではありません。4月に立てた個人目標に対し、まったく到達できていなかったら、上司と部下とで改善プランを立てていきます。数字への達成率よりも、リーダーシップスキルに対する評価軸の方が重要視されます。もう1回、短期的な目標値をたてて一緒にやっていこうと、コミュニケーションをとりながら改善していきます。

「~代理」「~補佐」…役職だらけで時間がムダに

――採用については、日本企業と違いはありますか?

星:日本はエキスパートを採用するのではなく、新卒一括採用でおしなべて同じような教育レベルの人を雇って、長期的に教育をしていきますよね。採用人数も、ほぼ毎年、同じ水準を保っている。

一方、アマゾンは必要なときに必要な人材を採るという考え方なんですね。来年のプロジェクトには何人、どういうスキルセットの人が必要、といった形で、採用の人数や採用する人の中身を変えます。状況にあわせた臨機応変の採用の仕方ですね。
長期的に同じようなスピードで企業が成長していくのであれば、新卒一括採用のほうが理にかなっているとは思いますが。

――でも、長期的どころか、短期的にも成長していません。

星:そうすると、入ってくる人の“階段”を作るために、役職がどんどん生まれてしまう。日本企業では、「なんとか代理」「なんとか補佐」とか、とんでもない数の役職があったりしますよね。結果、何かを決めるときでも、上司のハンコを順番に10個もらう必要があったり、決断が遅くなってしまいます。

アマゾンは階層が3~4つしかなく、組織として非常にフラットです。上下のヒエラルキーは日本企業以上に明確ですが、階層が薄いので、コミュニケーションは取りやすいですね。
たとえば、私の最終的な職級はレベル8のディレクターで、さすがにジェフ・ベゾスと直接話すことは数回しかありませんでしたが、その次の階層の人と直接話せるくらいのレベル感。非常に風通しはよかったですよ。

「アマゾンで最後まで逃げ切ろう」という人はいない

――人事異動については、アマゾンではどう決めるんですか?

星:会社が決める異動はほとんどありません。どの国でどのポジションが空いているという情報が会社のイントラネットに出ているので、それを見て自分で手を挙げるんです。社内異動でも面接があるので、希望が必ず叶うわけではありませんが、本社で働きたいとか、別の部門も経験したいとか、チャレンジがしやすい。

このやり方には、デメリットもたくさんあります。情報や「経理一筋」のような経験の蓄積がされにくいし、引継ぎの手間もかかる。でもそれ以上に、活性化されるという効果のほうが、私は大きいかなと思います。

――アマゾンに限らず、外資系は辞めていく人も多いと聞きます。

星:辞めていく人も多いのですが、常に新しい人が入り、新陳代謝が行われている。社内で一緒に仕事をする相手が変わっていくのでおもしろいですし、組織としても活気づきますね。

しかも、アマゾンでは毎年、採用する人の基準値を上げて全体のアベレージを上げているんです。だから、働くほうからすると非常に厳しい環境です。自分のパフォーマンスがいつ、会社の求めるものに到達できなくなるかもわからないですから。

――やっぱり、厳しいんですね。のほほんと定年まで逃げ切る、というのは不可能?

星:そもそも、アマゾンで最後まで勤め上げたいと思っている人は一人もいないと思います。定年制度がないので、勤めようと思えば70歳80歳までいられるかもしれませんが、アマゾンでの経験を糧にして、他で活躍したいという人がほとんどだと思いますよ。

【星健一氏プロフィール】
1967年生まれ。JUKIおよびミスミで海外現地法人の社長などを務める。2008年アマゾンジャパンに入社、リーダーシップチームメンバーとなり、創世期~成長期の経営層として活躍。2018年アマゾン退社後は、kenhoshi & Companyを設立し、セミナー講師、コンサルティングを手掛ける。2020年2月、「オイシックス・ラ・大地」に入社、COOに就任。著書『amazonの絶対思考』

<取材・文/鈴木靖子>