私の記事、アマゾンの面接術――感覚的ではない、明確な「採用基準」とは?
を掲載いただきました。
https://bunshun.jp/articles/-/17512
わずか10年で数百人から約7000人にまで増えたアマゾンの従業員数。一体どのような採用を行っているのだろうか。面接官の選び方から人材を見極める方法まで、アマゾンジャパン元経営メンバーが明かす「採用の法則」とは?
【「amazonの絶対思考」(扶桑社)から一部抜粋】
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従業員は7000 人、採用は狭き門
アマゾンは日本進出以来、いわゆる中途採用を中心に人材を集めてきた。新卒採用を初めて行ったのは2012年からで、まだ10年と経っていない。その募集枠も数十名ほどと多くはない。アメリカをはじめとする世界各国のアマゾンではMBA卒のみの採用で学士の新卒採用は行っていないので、これも日本に定着して日本流の方法で優秀な人材を集めるための日本独自の試みである。
私がアマゾンジャパンに入社した2008年当時の従業員数は数百人ほどだった。それがわずか10年でおよそ7000 人まで増えている。その間、大量の人材を採用してきたわけだが、実はアマゾンでは採用時の選考には慎重にじっくりと時間をかける。また、応募者に対する採用率は数パーセント程度と、とても狭き門になっている。
採用に時間をかけて厳しい選考を課すことには、ビジネスを動かすのは人であり、人間の資質やスキル、経験値が企業にとっては最も重要というジェフ・ベゾスの理念が反映されている。
アマゾンにおける採用手順を説明しておこう。
人事部ではなく、直属の上司となる人間が部下を採用
採用する人数は、部署ごとに予算審議を経て割り当てられる。採用人数はヘッドカウントと呼ばれ厳しく管理されており、割り当て以上の採用をすることは余程の理由がない限り許されないので、その採用の重要度はさらに増す。その採用ポジションの上司は採用責任者である「ハイアリング・マネージャー」となり、自分で直属の部下となる人材を採用していくことになる。
比較として、私が2005年まで勤務したJUKI株式会社という日本のメーカーの例を挙げる。私は当時、海外法人にいたので、組織構築の過程で社員を自分で採用したことはあったが、日本の本社では、一般的な日本企業と同様に人事部が新卒を大量に採用して各部署に当てはめていく仕組みが主流だった。配属された新人達は多少その人の強みや経験などを考慮して配属されるが、長い期間をかけて配属された部門で専門知識を培い、戦力となっていく。そして、これを毎年、繰り返す。
この方法は長期的に会社が同じスピードで成長していく、もしくは定年退職者が出ていく会社での人材採用戦略として適している。一方、その時々のビジネスチャンスに合わせて、組織拡張、強化をしていく成長企業であれば、この方法では必要なスペックの人材を必要な時に採用できず、適材不足となる。実際の仕事内容を熟知している直属上司が経験値やスキルを吟味して人材を選考する合理性は、アマゾンでの経験を通じて実感した。
面接官の人数設定にはあるルールが……
採用人数の承認を得たハイアリング・マネージャーは、まず自分が求める人材についての条件をまとめた「ジョブ・ディスクリプション(募集要項)」を人事部に提出。人事部から人材エージェント、アマゾン採用サイト、LinkedIn などに募集情報が発信される。
応募が集まり、書類選考、一次面接などその後のスクリーニング(選別)過程は全て人事部ではなくハイアリング・マネージャーが進めていくことになる。
最終(2次)面接の面接官の人数設定は採用するポジションの職級マイナス1というルールがある。職級が上がるほど面接官の数が増えるのはそれだけ多角的に応募者のチェックをするからである。たとえば、レベル7のシニアマネージャーが、直属のレベル6であるマネージャークラスの人材を採用したいとすると、「6(レベルの数)―1」、合計5名で面接にあたる。残り4名の面接官を決めるのもハイアリング・マネージャーの責務である。
最終面接にはクオリティを維持する「スペシャリスト」が同席
面接官は誰でもいいというわけではない。最終面接には必ず「Bar raiser(バーレイザー)」という社内資格をもつスペシャリストを含めなければならない。私もバーレイザーを務めていたが、バーレイザーには名前の通り、アマゾンが採用の「バー(基準)」を常に「レイズ(上げる)」し、クオリティを維持するための管理者といった役割がある。
バーレイザーは過去の面接の回数や経験、面接後の記述式フィードバック内容の質、業務経験などを考慮して社内のバーレイザー委員会で選出、その後、何度も実地トレーニングを受けて認定されるポジションで、現在ではアマゾンジャパン社内で数十人ほどが任命されている。さらに、ハイアリング・マネージャーは自分に関わる部署ではなく、全く違う部署に所属するバーレイザーに面接を依頼しなければならない規約がある。あくまでも客観的な判断を得るためだ。
実際の面接におけるチェック項目
実際の面接では、ハイアリング・マネージャーがバーレイザーを含めた数名の面接官それぞれに、リーダーシップ・プリンシプルの14項目(注・アマゾンの従業員が規範とする「原則」)を担当する項目に振り分けて依頼する。
募集する職務によって「今回の仕事では『Dive Deep』がとても大切なので、あなたとあなた、2名が重複してチェックをお願いします」といったこともある。つまりリーダーシップ・プリンシプルは、アマゾンの採用基準そのものでもあるということだ。
全ての面接が終了すると、面接官が全員集まってバーレイザー主導のもと協議して採用する人材を決定する。
感覚的ではない、明確なアマゾンの採用基準
バーレイザーはそれぞれの仕事を抱えており、採用に専従しているわけではない。アマゾン社内の採用システムで過去に何人面接をしたのかがわかるのだが、私自身、退職する際に確認すると、10年間の在籍中に1000人ほどの面接を行い、その中で採用したのは50人ほどだけだった。週に5人以上の面接を行ったこともあるが、バーレイザーには特別な手当てや報酬はない。通常の業務に加えてバーレイザーの責務を果たすには、強い「Ownership」が必要である。
しかし、アマゾンでパフォーマンスを出すためのバーに精通した「現場」の人間が面接を担当し、リーダーシップ・プリンシプルに基づいて妥協をしない高い「基準」を貫く選考をバーレイザーがリードするからこそ、採用のクオリティが維持されている。
データや数字を重要視するアマゾンの人材採用が、よくあるチェックシートなどの点数制ではなく面接官の属人的評価であるところも面白い。しかし、それも「リーダーシップ・プリンシプル」という採用基準が明確であるからこそ可能なことだ。もちろん、時には採用ミスを悔いることもあるのだが……。
前職で海外法人を拡大していた際の採用には自分なりにこだわっていたつもりだったが、採用基準が感覚的で曖昧であったために人材のクオリティーが安定しておらず、結果、労使双方が不幸になった経験がある。やはり、採用基準を明確にし妥協しないことは重要だ。
盛った話には「Why?」を繰り返して深掘り
ある人材エージェントから、こんな話を聞いたことがある。「アマゾンジャパンは常に何十人、何百人と求人しているのでとても大きなクライアントだ。でも、あまりにも採用率が低くて面倒なんだ」と。
なぜなら、面接官の質問にも「Dive Deep」が徹底されている。たとえば「Think Big」を確認するために、今までに手がけた経験があるプロジェクトについての質問に対して「こんなに壮大なプロジェクトを担当しました」といった答えが返ってくる。面接でやや「話を盛る」のはよくあることだ。
でも、アマゾンの面接官たちは回答に対して「Why?」を繰り返し深掘りしていく。デコレーションを剥ぎ取った本質を見極めるのが、面接官の責務でもあるからだ。結果としてアマゾンの採用基準はとても厳しいものになっている。
※アマゾン従業員の規範となる14項目の「リーダーシップ・プリンシパル」や、新人の育成、厳格な人事評価など、詳細は「amazonの絶対思考」に書かれています。
※問い合わせ先:https://kenhoshi.com