行動指針、規範の14項目(続き)
『Learn and Be Curious』は常に学び、好奇心を持つことです。リーダーは常に学び、自分自身を向上させ続けます。新たな可能性に好奇心を持ち、実際に探求します。これは好奇心のレベルや対象はそれぞれ違いますが、他者がやっていること、市場の動き、テクノロジー、ライバルに対しても好奇心を持つことです。それがあるからこそ人間は向上していくので、常に好奇心を持ちなさい、と言われておりました。
『Hire and Develop the Best』は、採用と開発をベストにしなさい、最高の採用と人材開発を求めると私は訳しました。リーダーは全ての採用や昇進において、パフォーマンスの基準を引き上げます。優れた才能を持つ人材を見極め、組織全体のために選んで人材を活用します。リーダーはリーダーを育成し、コーチングに真剣に取り組みます。上になればなるほど採用は人事任せではなく、自分のチームの採用は全て自分で行う会社ですが、ここに物凄く時間をかけています。そして社員に対しても、いかに早く開発し、いかに早く昇進プロモーションさせるかということが、部下の一つの評価軸にもなります。
コーチングという言葉は日本でも流行っていますが、リーダーは次のサクセションプラン(後継者が誰なのか)を出すことを求められます。自分が事故に遭う、会社を辞めるなどを想定し、あなたには後継者がいるかと1年に1度必ず聞かれました。いないと答えたら「無能」と言われます。アメリカにいる上司に、自分が辞めた場合や不慮の事態を考え、次の後継者はこれだけいる、と伝えていました。後継者を持ってなければいけないし、育てなければならないのです。
『Insist on the Highest Standards』、これは最高水準を積み上げると訳しました。これも会議の中で結構使われています。当然普通の会社と同じように予算と計画書を立てて目標を定めますが、その目標のさらに上を要求します。例えば、お客様のエクスペリエンスを良くするための提案を持ってきたとして、これよりもっと経験を良い方法はないかと突き返すことでディスカッションが産まれます。現状に満足せず目指すのはもっと高いところだと普段より考え、社内、サプライヤー、パートナー企業にも同様に、常にできる限りクオリティの高い仕事を行っていきたい、と言うことです。
『Think big』は視野を大きく持ち、その視野で物事を考えろ、を意味します。小さくせせこましいものではなく、もっと大胆な戦略、例えば、対前年比10%アップを目指すより、20%、30%を目指す大きな考えをするべきで、そのためには何が出来るかという話をしていました。
『Bias for Action』ですが、Biasは日本語では偏見になりますが、英語ではスピードという意味もあります。先程の70%の仮説はこれにつながっています。考える時間、分析も重要視しますが、そこに時間をとってしまうとなかなか実行できないので、最後は直感と経験によって意思決定を早くすることです。それは、計算されたリスクを取ることですが、アマゾンではBプランと呼ぶ失敗した時のためのサブプランを予め用意しておきます。失敗の定義を設け、その時に決断できるようにし、そしてどこまで戻るかを明確にするプランの流れを求められます。しかしリスクはきちんと自分たちで理解しているので、成功を考えて進めましょう、となります。バックアッププランのリスクを理解することにより、スピードを早め意思決定をしていくからこそ、失敗の多い会社でもあります。その中から成功したものを回し続け、自動化していくことで想像以上に大きくするのが得意な会社だと思っています。
『Frugality』。日本語訳で倹約ですが、経費節減ではありません。私達はお客さまにとって重要でないことには、あえてお金を使わないようにします。プロジェクトを立案する時に大風呂敷を広げて大きな夢を描くことも必要ですが、まずは限られたお金でやってみなさい、というのも経費削減、倹約の精神からきています。それをアマゾンでは「two pizza team」と言います。2枚のピザを食べられる人数、おおよそ8人です。まずはツーピザチームのレベル感で行ってみて、成功したらもっと大きくすれば良いのです。そのスピード感も、経費削減ではない倹約の精神も、こういうところに結びついています。
『Earn Trust』は真摯で毅然とした懸命なリーダーの規範となり、人々から信頼を集めなさい、となります。人に敬意を持って接することも当然ですが、間違いを素直に認めることも意味しています。
そしてデータを重要視することを表しているのが『Dive Deep』です。日本語で言うと深堀りです。リーダーと呼ばれている者は細部まで理解をしている必要があります。
アマゾンでは「Weekly Business Review」という週次報告会がアメリカの本社とありますが、本当に細かい数字把握を求められます。私が知らなくて部下に回答を任せるようであれば、私のグリップが効いてないことになります。私のビジネスがどう動いているかを含めて、例えば、顧客数の推移は? この事業エリアで前週より利益率が2%減った背景は? などに対し、テレビを他社が値を下げて売り、それと同じ値段で売ったため利益が減った、などの背景が必ずあります。それらもきちんと理解をし、それに対するアクションについても理解を求められます。
また、色々な仕組みを作っていきますが、仕組みが周り始めると自動で廻っていくので、今度重要なのはエラーのアラートに反応することです。ビジネスモデルがうまく廻っているかどうか、数字によって監査をします。これもDive Deepの一つです。
『Have Backbone; Disagree and Commit』。これは世界の中でもアマゾンジャパンの日本人社員が一番苦手としています。日本人は上に対して従順で反対の意見を持っていてもなかなか言えません。性格的にシャイということもあると思います。世界中から社員が集る様なグローバル会議などでは、アマゾンジャパンの社員が自分を前に出すのが一番苦手で、日本人は静かだと言われてしまいます。私も海外の大学に行きましたし、社員にも海外の大学を出ている人間は沢山いますが、それでも国民性なのでしょうか。きちんと意義を唱えることによってディスカッションが始まるので、反対意見があれば恐れずに言うべきです。しかしながら最後は誰かが決断しなければいけないので、決断したあとはきちんとコミットをします。
最後は『Deliver Results』、結果を出しなさい、です。
これで14項目ですが、相反するものがあります。例えば、大きな視野で考えなさいとしたThink Big、一方でDive Deepはデータを細かく見なさい、と相反しています。これを「counter balance」と呼び、これらは、「And」として両方持ちなさいと教えます。しかし新入社員や新しい人が入ってきて、どこから伸ばすかと言うと、弱みを補うより強みを伸ばしたほうが良い場合もあります。その時は「OR」になります。新人がデータエンジニアの出身で、エクセルのマクロ系は強いが自分からビジネスを開発する能力は足りない、大きな視野で考えられない、このような場合にそこを批判するのではなく、Dive Deepを伸ばしてあげるのが「OR」で、やはり両方持たせるのが「AND」になり、その人のステージによって扱いは変わってきます。
どのように人材を採用し
開発していくか
採用についてですが、新卒社員は毎年数十名採っておりますが、アマゾンジャパンは現在6~7千名いる中での年間の数十名は取るに足らず、無経験の新入社員を教育するのはあまり得意な会社ではありません。必要な時に必要な人材を採用します。
そして採用基準を常に引き上げるグローバルな「Bar Raiser」システムがあります。現社員のレベルより高い水準を追求します。私も日本のBar Raiserでしたが、これは会社から認定されます。Barは基準、raiseは上げる、です。例えば財務部門が採用を進める際に、面接はその部門の人で固めるのではなく、Bar Raiserが必ず入らなければいけません。そして妥協や基準を間違えて採用しないように、Bar Raiserが方向性を示します。採用する役職により面接に入る人数は違いますが、私の様なBar Raiserが必ず面接に加わり、その後に面接した全員で採用について話し合います。「このポジションは半年も取れないし、こんな人でも採用しよう」と妥協するのを「それはおかしい。最初はこういう人が欲しくて採用活動したのに、なぜ半年間取れないからといって急に妥協するのか。妥協ではなく募集の仕方を変えるべきだ。使うエージェントを変える、広告を変える、こういうことを考えなさい」と私は止めていました。
そして「Leadership Principles」は面接の確認事項となり、14項目のうち一人3~4つの担当領域を持ち、それぞれを深堀りして質問し、それら結果についての最後に話しあいます。
大抵の人は面接には自分を着飾ってデコレーション満載で来ます。嘘までは行かなくとも少し大げさに言うこともあると思います。それをなぜ? なぜ? と繰り返して、その人の本質を見極めていきます。なので、アマゾンの面接は時には圧迫面接だと言われますが、質問に対する回答に、「なぜ」と繰り返すことで、相手があやふやになっていくこともあり、この人にはそこまでの経験はない、と採用した後の相互の落胆を防ぎます。それにより採用までの期間が長くなったとしても、妥協はしません。
次に人材の開発ですが、新入社員はほぼおらず、中途入社で年間に数百人ほど色々な方が入ってきます。採用は人事ではなく、その人の上司になるマネージャーが行います。その上司は、A4で何枚にもなるような、「Launch Program」を作ります。最初の1、2週間はこんな人に会い、こんな質問をしてこのレベルまでの知識を覚えてください。あなたの必要としている情報は社内イントラの中にこれだけ揃っているので、このレベルまで理解してください、ということを詳細なプログラムとして渡します。
そして上司以外にも「Mentor」と「Buddy」を付けます。メンターは他の部署の上司と同格の人で、1ヶ月に1度、相談にのってもらえるよう依頼します。またバディはいつでも気軽に質問できるよう同じレベルで、同様の職に就いている人を正式な仕事として付けます。これらにより、入社後のローンチをスピーディにすることができます。
自分より有能な人を採用し、自分の仕事を与えて自身はひとつ上の仕事をする。その考えで採用しているので、なるべく「Delegation」(権限移譲)をしてその人の能力向上を狙います。また、今はこの人の能力では難しいが、120%の力を出してくれたらできるのではという、少し上の仕事を与える、もしくは、来年にはマネージャーに昇進させたいので、今のうちからその仕事をさせてしまおう、というのが「Stretching」です。
また、社員が手を上げればいつでも自由な部門間異動が可能です。社内に今空いているポジションが掲載され、希望者は申請が可能で、採用と同じように面接があります。
さらに「1on1」という30~45分の一対一のミーティングがあります。直属の部下とは必ず1週間に1度行わなければなりません。一番多い時で直属の部下が16人、一番少ないとき3,4名くらいですが、その下に数百名がぶら下がっている訳です。その内容は部下により、時には私生活の話になることもありますし、こんなキャリアを考えている、転職を考えている、など色々な話になります。業務を中心とした部下のフォローアップをするために、定期的にミーティングを持つことが義務付けられていました。
それとSMARTな設定です。S-Subjective(具体的)、M-Measureable(測定可能)、A-Achievable(達成可能)、Relevant(会社やチームのゴールとの関連性)、T-Time Bound(期限がある)のことです。明確なゴールを設定することで、その人達がアマゾンに数年いても、きちんと自分のスキルも身に付くしキャリアも上がる、ということの方向性を示して見せることが非常に重要だと思います。
人事評価制度は、360度評価を採用しています。これは私のことを評価するのは私の上司だけではなく、同僚、部下、様々な関係者が、私のこの1年間のダメな部分、素晴らしい部分というフィードバックを集めて、最終的に上長が私を評価します。上長にはいい顔ばかりして、部下にはキツイ当たり方をする人がよくいると思いますが、アマゾンはそういう人は生き残れません。
評価は、単純な評価基準、度合いを示すパフォーマンス評価、「Leadership Principal」で示される行動規範をロールモデルとした評価、最後に将来性(成長性)で示されます。これらが独自のアルゴリズムで計算され、高い評価が20%、そして真ん中が70%、ちょっとダメが10%と割り振られます。またマネージャーの評価ですが、マネージャーはピープルマネージャーと呼ばれていて、部下が2人以上いると部下の採用や開発をしなければならず、その評価基準はどれだけ素晴らしい部下を採用し、どれだけ素晴らしい部下を育て上げたか、が評価軸の中でも大きなものになります。
もう一つは、世界共通の役職です。日本にも海外に支店がある会社は多いと思います。日本の本社組織の構造と海外支社の構造が違うことが多く、海外でマネージャーや社長をやってきた人が、日本に帰ると課長に戻る、などがよくあるパターンです。アマゾンではそれがなく、私のディレクターというポジションは、世界中どこに行ってもディレクターです。世界で役職が全く同じなので、どういう人がどのくらいの権限をもっているかが非常にわかりやすい利点もございます。
そして組織デザインが低階層でフラットです。ジェフ・ベゾスが私からどれくらい上だったかというと、たったの3つです。逆に私の下にどれくらいの階層があったかというと、役職付きだけでディレクター、シニア・マネージャー、マネージャーの3つしかありません。78万人いるわりに階層が非常に少ない会社だと思います。Span of control (管理範囲)とComplexity(複雑度)により、それぞれのマネージャーが、もつべき権限範囲をコントロールしています。例えばピープルマネージャーは2名以上の部下(管理範囲)を持っていても、6つ以上のファンクション(複雑度)を持っていなければ、マネージャーにはなれない、などです。
さらに「Diversity」(多様性)です。人種、LGBT、宗教、学歴も含まれます。多様性のある人が集まることにより、多様性のある意見が出ている会社です。
そして企業文化の醸成は「Leadership Principles」をどこまで愚直に繰り返し従業員に教育するかです。これがイヤな人は辞めて行きます。さらに共通言語の使用です。前述の一つひとつの単語には沢山の意味が隠されていますが、毎回語っていたら議論にならないので、短縮されたものを使います。例えば、「Fulfillment by Amazon」というロジスティクスのサービスを、「FBA」と言えば、長々しいことを言わずに済むなど、それらが実に何百と作られていて、使いこなすことで、コミュニケーションのクオリティアップと、時間を短くすることもしています。
また、派閥などは一切なく、上下関係があるにしても、ヒエラルキーが存在しません。世界共通の役職もあるので、意思決定者が誰かと明確に分かっているということもあります。
16カ国に展開をしていますが、開発の機能はシアトルとインドに集中しています。日本にも独自の開発チームが少しはありますが、ほぼ無いに等しいと言えます。よく同じ社内なのに、同じ目的のために別の色々なものを使う非効率な現象があります。しかし、例えば日本のポイントプログラムが対楽天で必要だったときに、日本でポイントが良いのであれば、アメリカでも使えるのでは、ということで、それぞれの国で考えたことがその国で終わらずに、開発拠点を集約することで全世界に一挙に展開され、ガラパゴス化を防いでいます。
アマゾンの企業文化
企業文化については、最初の「Customer Obsession」で、世界中で最もお客さまを大切にすると言いました。新機能、サービスを考える際に、自分たちの利益、売上を上げるため、と考えるのではなく、今のお客さまのエクスペリエンスをさらに改善するために、お客様の立場に立つとどう見えているか、というアマゾンのサービスを良くすることを、お客様の起点から考えるということです。
そのときによく使うのがプレスリリースです。私が仮に新しいサービスを考え、そのリリースが1年後だとすると、その時にプレスリリースを出すとしたらどんなものになるかをイメージします。次に仕組みです。仕組みは人間が行うのではなく、まずは「two pizza team」で始め、うまくいったら自動化しましょう、としています。ですからアマゾンの採用は営業や間接的な事をする社員よりもエンジニアを採用します。なぜならばエンジニアは仕組み化することができ、プロダクトマネージャーやアーキテクトなど、テックの人を採用、開発することにより、一人分ではなく何百人分の仕事が出来ます。また人間がやれば必ずエラーもミスも起こりますが、自動化することによりどちらもなくなり、Growthも促進されます。
では人間は必要ないかと言うとそうではなく、人間はInnovationや新しいサービス、戦略を考えます。今やカスタマーサービスもAIロボットが答えたりしていますが、やはり人間にしか出来ないこともあります。そういうところに人間を配置していく考えです。
それからDive deep、深堀りをするということです。アマゾンでは百分率ではなく万分率で見ており、細分化された数字、0.1%はおろか0.01%まで対前週比、対前年比、対予算費などを追います。それは売上、成長率、利益率、お客様の獲得数など、様々なものを細かく見た上で深堀りをしていきます。それら膨大なデータの分析ができる環境も整っています。
各ビジネスユニットは事業部をイメージしていただければ良いと思いますが、そこにファイナンスパートナーと呼ばれる財務部門から出向のような形で人が派遣されており、実際に各部門の中に机を置いています。これが時にはイライラするほど色々調査をします。数字を客観的に分析し、「あなたのやっていることは方向性を間違えています。数字がおかしいです。なぜこういう決断をするんですか?」というようなアドバイスや注意をしてくれるお目付け役ですが、こういう人がいることにより、時に決断を間違えた際も方向を是正してくれる、そんな人もおります。
よくジェフ・ベゾスが「頑張るだけではダメ、仕組み、メカニズムがうまく物事を動かす」と言います。人間の頑張りには限界があるので、仕組みを作って人的オペレーションを削減し、そのためのツールも作って導入しましょう。そして今度はそれをうまく動いているか検証していきましょう、となり、これを「メカニズムの導入」と呼んでおります。
そして、それらがうまく動いているかを測定するために、KPIが重要になってきます。KPIは「Key Performance Index」で、進捗管理を週次や月次で行っています。例を挙げると、マーケティングにおける新規顧客開拓として、お客様がどれくらいアマゾンに来て、そのうちの新規の人数、その一人あたりに掛かったコストなどの数字を定点観測することにより、エラーや機会を見つけるなど、KPIを多用しています。
これは皆さんの会社ですぐできることだと思います。各部門のゴール設定を後述のように組み立てていきます。
KGI(Key Goal Indexer)は会社の売上や利益で、KPIは売上であれば客数と単価などそれらを支えるものが次に来ます。さらにKSF(Key Success Factor)は、それを作り上げる各部門の担当になると思いますが、このような形で会社の売上と利益は構成されていると思います。それぞれ指標を持ち、毎週、毎月、毎四半期追っていきます。
それら目指すゴールをSMART目標で設定します。Specificは具体的に数字で示せること。Measurableは測定可能なものにすること。Achievableは、無理難題にならないよう妥協はダメだがある程度のストレッチをかけながら達成可能なものにすること。Relevantは会社の経営方針などに関連していること、Time-boundは時間設定がはっきりしていることです。インターネットで検索すれば、例が沢山出てくると思います。目標を達成するために、上司は毎週毎月の1on1で、チェックではなくアドバイスをして上げてください、となっていますし、上からこうやれと言うのではなく、ゴールを設定する時や、戦略を決める際に、チームをそこに巻き込み、一緒になって議論する場を設けたり、業務の優先順位を調整してくれと言われた時に、部下が目標を元に優先順位を決められるものにもなっていくと思いますし、ゴールを立ててもそれをおざなりにせず、妥協せずに最後までやり通させるということも大切です。また、ゴールが間違っていれば、期の途中でもそれを変えてあげるということも重要ですし、出来ない理由が設定の間違いなのであれば、人数の追加や外部組織を使ってサポートする、なども大事です。そして四半期ごとにチェックして、達成していたら都度祝ってあげます。これらが文化の醸成につながっています。
もう一つの文化として、本質的なディスカッションをする、というのがあります。アマゾンではパワーポイントは一切使いません。一方的なプレゼンテーションになるので禁止です。その代わりにワードにてA4で6ページに納める「Six pager」と呼ばれる提案書を作ります。今回の提案の趣旨、現状分析、それに対する戦略、それを落とし込むアクション、そして最後にリスク、必要なリソースやファイナンシャルプランが付く立て付けです。それを事前に配り、1時間のミーティングであれば最初の20分で全員が読み込み、全員の理解度が同じレベルになってからディスカッションを始めます。そうすることでパワーポイントによる一方的なコミュニケーションを失くすことが狙いです。
曖昧な言葉を排除するというのもあります。例えばlargeやsmallなどの言葉は使ってはならないとなっています。ただ大きいと言うのはダメで、20%大きいと言うのはOKです。数字で説明できることが要求されます。
そして「Day 2」の防止です。アマゾンも28兆円の会社ですから、私が辞める2年位前までも常に大企業病になる可能性がいくらでもありました。Day 1は初心を指し、経営陣が常に「会社を作ったときの1日目を忘れずにやっていこう」と言います。Day 2とは妥協、馴れ合いなどを揶揄する意味です。常に新しいことをお客様に届けるということを忘れないため、常にメッセージしています。
それから一つの仕組みとして1年に1回、マネージャー以上が丸一日集まり、会社の3年後を描いてグループディスカッションを繰り広げ、そこで実現するプロジェクトを組むというものがあります。また、翌年のビジネスプランを各事業部が作り予算をディスカッションしますが、1年後だけではなく3年後のイメージも求められます。
このような様々な仕組みを取り入れることで、アマゾンは大企業病を無くす試みを続けています。
質疑応答
Q.今回のコロナ禍のように世界同時に危機的状況が起きた際に、日本またはその他の国独自の、その土地固有の事情を元に対策が作られることはあるのか?
A.ないと思う。今までの普遍的なビジネスモデルがお客様を中心に考えて利便性を提供し、作り上げてきたインフラが有事の際もうまく動いているはず。世界中でビジネスモデルは全く同じなので、日本独自で言えばコンビニ払いや日本独自の仕入れくらいで後はほとんど同じ。今も変わってない。
Q.話の中で楽天との比較はあったが、アマゾンとミスミを比較した違いは? またその二社の優劣は?
A.ミスミの前もBtoBの会社にいて、アマゾンで初めてのBtoCだが、そこでもパフォーマンスを発揮できたのはビジネスが似ているところがあったから。ミスミもメカニズムを重要視する会社で、様々なメーカーが多数で商品供給を支えており、それが即納できる仕組みをサプライチェーンでつなげている。お客様が企業の数百万人か、個人の5千万人か、それだけの違いで非常に似ていると思われる。また、ミスミは10年前でまだWebがなく分厚いカタログで商品を選んでいただいていたので優劣はつけがたい。両方ともビジネスモデルが似ていること、データ分析を重要視すること、戦略立案に時間をかけることも良い意味で似ていたかもしれない。劣の部分はあまり見当たらない。
Q.行動指針を浸透させるためには?
A.徹底的な洗脳だと思う。経営陣の全社員に絶対に浸透させたいという覚悟と気概がある上でそれを支える教育のシステムが必要。
Q.顧客中心主義を掲げていたが商売として利益をどう考える?
A.10年間赤字だったが、運が良く増資や融資で廻っていた。理想論だが結局は小売は仕入れて販売なので、お客様を増やすことが大切。信頼を得られればおのずと増え、コストの割合が減ると考える。今でも営業利益で10%以上は出せるが出さないのは今の売上ではなくその先を目指しているため。今の利益より100兆を目指せるインフラを作り上げることが目的。
Q.人を育てることに重点をおいているが、実際に入った方が長続きするのか? 離職率は気にしていないだろうが、会社に残り続ける仕組みは実現できているのか?
A.私が入社したときの離職率は約25%あったが今は5%もない。会社から解雇されるのではなく自分から辞めていく特殊な会社。なるべく早いうちから昇格させる。当然給料にもつながる。またキャリアを身に着けさせるための様々な機会を与る。転職せずとも新しいスキルが身につくようHRや人事ではなく上司が提供しなければいけない。理想論だが優秀な上司は皆それをやっていると思う。