日本企業はなぜ没落したのか。“チマチマ病”という悪弊/アマゾン元幹部に聞く
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200130-01640806-sspa-soci
今回は著書からの抜粋記事ではなく、Q&A方式の記事です。
現在、コンサルタントとして日本の企業をサポートしている私は、アマゾンを筆頭とした成長企業が良い、日本企業が悪いという結果論で申し上げるつもりはありません。経験をベースにした両者の普遍的でもあり、可変的でもあるストーリー作り、ビジネスモデル構築へのアプローチの仕方の違いを4ー6回程度の連載でお伝えできればと思います。
日本企業はなぜ没落したのか。“チマチマ病”という悪弊/アマゾン元幹部に聞く
1/30(木) 8:52配信 週刊SPA!
(日刊SPA!)
日本企業はなぜこんなに凋落してしまったのだろうか?
世界時価総額ランキングTOP20のうち、平成元年(1989年)には日本企業が14社も入っていたのに、令和元年(2019年)はなんと0社だ。
現在の時価総額TOP20を占めるのはGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの米国IT企業や、アリババなどの中国IT企業である。
これらの企業と日本企業を分けたものは一体、何なのか? アマゾンジャパン元経営会議メンバーで、『amazonの絶対思考』の著者である星健一さんに、話を聞いた。
決めない、挑戦しない、チマチマ病の正体
――星さんは2008年にアマゾンに入社され、10年間、アマゾンの急拡大を“中”で体感されたわけですが、やはり、日本企業と外資系企業は違いますか?
星健一氏(以下、星):日本企業と外資系企業、どちらが正しいというものではありませんし、私がお話できるのは、あくまで「アマゾン」との比較ですが、経営・経営層、人材のマネジメント、ビジネスモデルという部分で、やはり違いを感じます。
まず経営・経営層でいうと、求められるもの自体が違うのではないでしょうか。
――経営に求められるものとは?
星:日本企業の場合、一部のオーナー社長を除けば、内部昇進したサラリーマン社長が多いですよね。60歳代に就任し、任期はだいたい数年。一般社員よりは高給ですが、高いインセンティブがあるわけではない。限られた年数の中で「失敗しない経営」を貫き、任期を勤め上げようとする方が多いように感じます。
――アマゾンは違うのでしょうか?
星:これについては外資系全般と言っていかもしれませんが、外資企業のトップに求められるのは「挑戦」です。日本企業ではたとえば「営業利益前年度数%増」といった目標が掲げられますが、伸張している外資では「前年比数十%増」のような高いターゲットが設定されます。それにチャレンジすることが経営者の仕事。だからこそ、成功報酬も含めたリターンとして高額なインセンティブがあるわけです。
――でも、挑戦して大失敗したら、それこそ大ごとでは?
星:アマゾンなんて、ジェフ・ベゾスが創業した1995年から数年間、毎年何百億円もの赤字を出し続けていました。それでも莫大な資金を調達し、9年後にはやっと黒字化して、その後、目標だった「売り上げ1000億ドル(約11兆円)」も2015年に実現し、さらに、そのわずか3年後の2018年には20兆円を超えたんです。
これは経営だけでなく投資スタイルも関係しています。日本は投資額が海外に比べたら小さいし、すぐにリターンを求められてしまう。大きな仕事ができず、短期の戦略にならざるを得ない。
しかし、海外では大きなチャレンジによって投資家を呼び込むことができるし、投資家も結果を待てる。
――規模感がぜんぜん違いますね。
星:ひとことで言えば、日本は企業も投資家も「チマチマ病」に陥ってしまっているように感じます。
――「チマチマ病」……感覚としてよくわかります……。
日本一のトヨタでさえ、世界では43位
星:トップが失敗しないような舵取りをすれば、会社全体が失敗しないような計画を立て、達成できそうな予算を立てることになります。スピード感をもって売上、利益を上げようとか、今、新しいことをやらないと将来的に大変なことになるといった危機感が薄いのかもしれません。
失敗を恐れて決断も非常に遅い。ダラダラと何も決めない会議をしたり、さまざまな課題がボトムアップで上がってきても、先延ばしにしてしまう。こうした「決めない、決められない」日本の悪しき商習慣も無関係ではないと思います。
――思いあたることばかりです。
星:結果的に何が起こったかというと、1989年には世界の企業時価総額トップ20に14社の日本企業がランクインしていたのが、2019年ではゼロ。日本企業のトップであるトヨタですら、世界の中では43位です。トップ20にどんな企業がいるのかというと、マイクロソフトにApple、アマゾン、フェイスブック、中国のアリババなど。わずか30年の間でビジネスモデルがすっかり変わってしまったわけです。
――いわゆる「プラットフォーム」を築いた企業が勝者となりましたね。
星:わずか30年ですが、この間に起きたのは「産業革命」と呼ぶべき変化だったと私は思っています。しかし、残念ながら日本の企業からは生まれなかった。そして、世界の中で奈落(ならく)の底に落ちていったというのが、“いま”なのかなと思います。
にもかかわらず「日本は素晴らしい、まだ大丈夫」的なお気楽な風潮があります。製造業が経済の中心であった時代は日本の勤勉さ、高品質とその管理、継続した改善による高い生産性が世界経済を引っ張りました。その後のサービス産業の台頭の中においては、イノベーション、スピードなどの意識不足、コミュニケーション能力不足からグローバルプラットフォームになる会社が現れなかった。
私はその時代の変化を、20年にわたる日本企業の海外勤務、および10年間のアマゾンにおいて直に体験しました。
――日本は今や、1時間当たりの労働生産性がOECD加盟36ケ国中20位(2017年)。世界競争力ランキングは過去最低の30位(2019年)に転落してしまいました。
星:世界の大変化に対して、日本の経営者も気づいてはいたと思うんです。ただ、決断が非常に遅かった。先延ばしにしている間に、世界の競合他社がどんどん台頭してきて、そのスピード感で負けてしまったということだと思います。
アマゾンで巨額損失を出した「ファイアフォン」の失敗
――うまくいかなくなって、失敗しないようにとチマチマして、チャンスを逃して……まさに、貧すれば鈍するです。
星:早い決断で回していくと、当然、失敗することはあります。ユニクロの柳井正さんも「1勝9敗」と言っていますが、決断が後手に回っていたら成功も生まれません。アマゾンだって、たくさん失敗しているんですよ。
――そうでしたっけ?
星:いちばん大きな失敗といえば、2014年に参入した携帯電話事業ですね。「ファイアフォン」を覚えていますか? 鳴り物入りでローンチしたのですが、結局、ほとんど売れなかった。大量の在庫を抱えて、1億7000万ドルの損失を計上し、撤退しています。
――1億7000万ドル!?(約187億円)
星:しかし、ファイアフォンの失敗があったからこそ、キンドルのタブレットや動画ストリーミング端末「ファイアTV」やAIスピーカー「アマゾンエコー」につながっている。当時、最高のテクノロジーでファイアフォンを作り、テクノロジーは培われて次の開発に活かされたわけです。
――失敗したプロジェクトの責任者や社員は飛ばされたりしないんですか?
星:当然、責められないことはないです。ただ、責任を負わされて、有無を言わさず飛ばされるということはありません。問われるのは「なぜ失敗したのか」という、その理由、その学習が次に活かすことができるかどうかということです。新規事業だけでなく、たとえば、予算の数字に未達成だったときも、理由が求められます。
アマゾンに根付いている文化のひとつでもありますが、失敗の原因をキチンと究明して分析して、次のステップへ生かす方策を示す。それができれば、トライ&エラーはOK。むしろ、リスクを恐れて何もしないのが、アマゾンでは許されないことです。
――無理目でも挑戦する、でっかいことをぶち上げる。アマゾンだけでなくGAFAが天下をとったというのも、そういうところなのでしょうか。
星:経営者だけでなく、投資家もレベル感が違うのは確かですね。考え方が突き抜けている。発想力の違いはあると思います。
ただ、GAFAに勤めている人がみんな、突き抜けた発想力を持っているわけじゃありません。会社が、発想力を養う仕組みをきちんと作っている。イノベーション、革新的なことを考えるように、会社も仕向けてるんですよ。
現実離れした「とんでもないアイデア」を出し合う
――発想力を養う仕組みとは?
星:たとえば、アマゾンでは毎年の予算編成時、あるいは3か年プランを立てるとき、「Disruptive idea」を書く項目があるんです。Disruptiveとは、直訳すると「破壊的な」という意味。常識に縛られない現状を打ち壊すようなアイデアを、必ず書かなくてはいけないんです。
また、年に1回、「イノベーションサミット」と呼ばれるワークショップが行われ、そこでもみんなで、破壊的なアイデアを出し合って、「もっとおもしろいことを」「もっと、とんでもないことを!」とディスカッションします。
たとえば、空飛ぶ飛行船を倉庫にして、お客さんのところにドローンで届けるとか、マンションの下に倉庫を作り、マンションの住人にはオーダーが入って5分以内で配送するとか。
――それは、楽しそうですね。
星:そうした一見、荒唐無稽なアイデアを出し合うのですが、そのとき、相手の意見を否定しないというルールのもとに話し合いをするんです。そして、そのアイデアをどうやったら実現できるのかまで考えます。
各事業部で話し合われたものは、いくつかの意見にまとめられ、日本からの破壊的なアイデアとして本社に提出して、会社の目標になることもあります。
――日本企業ではなにかと「現実を考えろ」と言われがちです。
星:実現への現実的なアクションプランは、次の話。現実から考えてしまうと、発想力の高いひらめきは生まれません。イノベーションサミットでは、おもしろければ、実現不可能なものでもいいんですよ。大切なのは、自分たちで考える習慣をつけること。自由にわいわいとブレインストーミングすることで、連想からアイデアを膨らませることが目的ですから。
――会社があえて、そういう場を作っているんですね。
星:人間、そんなにできた生きものではないですし、毎日、みんな忙しいじゃないですか。自主的に頭を柔軟にさせろといっても無理です。だからこそ、考える機会を強制的に作っているんです。
【星健一氏プロフィール】
1967年生まれ。JUKIおよびミスミで海外現地法人の社長などを務める。2008年アマゾンジャパンに入社、リーダーシップチームメンバーとなり、創世期~成長期の経営層として活躍。2018年アマゾン退社後は、kenhoshi & Companyを設立し、セミナー講師、コンサルティングを手掛ける。著書『amazonの絶対思考』