日刊SPA!に掲載されました。

拙書「amaoznの絶対思考」から抜粋された”アマゾンで社内文書が「A4で1ページか6ページ」と決められている理由”の記事が、掲載されました。
https://nikkan-spa.jp/1622730/4

アマゾンで社内文書が「A4で1ページか6ページ」と決められている理由

 1995年に米国シアトルでジェフ・ベゾス氏が創業したアマゾンは、今や世界16か国で約65万人のアマゾニアン(社員)が働く超巨大企業となった。その思考法や社内文化は、日本企業と大きく違うという。

アマゾン

PHOTO/ Jonathan Weiss

アマゾン・ジャパンで2008~2018年に経営層であった星健一氏が、同社の強みを分析した著書『amazonの絶対思考』。同書によると、社内文書の作り方ひとつとっても細かなルールがある。例えば「パワーポイント使用禁止」は今や有名だ。  では、アマゾン流の合理的なドキュメントとは何か? 長ったらしく華やかな資料づくりのために残業している、多くのサラリーマンとそれを求める上層部は、ぜひ参考にしてほしい(以下、星健一氏の寄稿)。 amazonの絶対思考

これが、アマゾン流・ドキュメント作成ルールだ

文章のクオリティに対してベゾスが要求するハードルは高い。当然、社内全体として質の高い文章を求めるのがアマゾンのカルチャーともなっている。では、何が良いドキュメントなのか、そのためのルールやフォーマットをマニュアル的になるが、概要を紹介しよう。

ドキュメントフレーム:1ページャーまたは6ページャーで

さまざまなドキュメントごとに、構成要素のフォーマットが示されている。「1ページャー」「6ページャー」それぞれに、代表的なものを列記しておく。  英文ドキュメントを前提としたフレームであり、各トピックの日本語訳も併記するがニュアンスが少し変わってしまうものもあることをご容赦いただきたい。少々わかりにくい単語があるかもしれないが、アマゾンのドキュメントに何が求められているかは理解いただけるだろう。 ●1ページャー [Progress report](経過報告)の場合  ・Introduction(序論、まとめ、結論)  ・Overview of Plan(プランの概要)  ・Review of Progress(進捗状況)  ・Changes in Plan Since Last Update(前回の報告からの変更、変化)  ・Overview of Risks(リスクの概要)  ・Next Steps(次のステップ) ●6ページャー [Project proposal](プロジェクト提案)の場合  Part 1 : Press Release 1 pager(プレスリリース1ページャー)  Part 2 : Main Document 6 pager (メインドキュメント6ページャー)  ・Introduction(序論、まとめ、結論)  ・Customer Need(顧客のニーズ)  ・Market Opportunity (マーケットのオポチュニティー)  ・Business Case (ビジネスケース)  ・Risks (リスク)  ・Estimate of Effort (概算の開発期間)  ・Timeline(ローンチスケジュール)  ・Resources Required(必要なリソース)  Part 3:Q&A(想定問答集)  Part 4:Appendices (添付資料)  Part 5:Financial Model (財務モデル、PL損益計算表の試算)  ドキュメントの種類によって違いはあるが、まず冒頭のイントロダクションでは「そのドキュメントが何を提案しているのか」「参加者に何を求めているのか」を明確に提示すること。また、課題(誰が何に困っているかなど)やファクトを示した上で、「顧客にどんなベネフィット(便利)があるか」を明確にして、常に顧客目線をもった論旨であることが要求される。  世界中から、いろいろな事業の提案が持ち込まれる中、どれだけのインパクトを与えられるか、それは売上規模であったり、顧客数増であったり、大きなプロジェクトから優先される。なので、年に1度の予算作成時の来年の計画であったり、新規プロジェクトの提案は、ちまちましたものではなく、大きく顧客の利便性を向上させるものでなければならない。スケールの大きい、将来的に大きく伸びる提案をしないと、リソースを勝ち取ることは難しい。

The September 30, 2018 issue of Forbes

ジェフ・ペゾス氏が表紙になったForbes(2018/9/30)

基本:曖昧な単語、不要な文を入れてはいけない

書類

写真はイメージです

①レビューと訂正プロセス  特に重要なのはスペルや文法に間違いがないこと。なぜなら、間違いがあると、提案者やドキュメントの信頼性が損なわれ、ミーティング参加者が提案内容から気をそらしてしまうからだ。ミスがないよう何度もチェックし、訂正すること。何度か自分で読み込みチェックしたあと、同僚や上司のレビューを受けること。新たな気付きを得ることもでき、ドキュメントの質が向上する。  データを全て完璧に揃えるまで書き始めるのを待つ必要はない。情報が不足している部分は後から追加できるように空白にしておけばよい。

②フォーマットに則る  ドキュメントには明確な目的を示し、それに応じたフレーム(前述)に則ってストーリーを構成する。そのドキュメントが決断を求めるものなのか、プロジェクトやプログラムの一定の側面に対する深掘りなのかなど、目的によって含まれるべき内容は異なる。  たとえば、新しいサービス構築の承認が必要な場合は、プレスリリース、顧客ニーズ、マーケットオポチュニティー、ビジネスケース、リスク、概算の開発期間、ローンチスケジュール等、必要なリソースなどが記載されているべき。そして、目的が何であれ、常に最初の段落で目的を述べ、何を提案するのかを明確にする。

③簡潔にする  参加者に何を伝えたいか、論旨が明確であるかを自問すること。文章に不要な言葉、文章、段落を含めない。

④ 曖昧な単語を使わない  曖昧な単語は表現を弱くするので、なるべくデータ、数字を明示する。 [避けるべき単語の例(英語)] should, might, could, often, generally, usually, probably, significant, better, worse, soon,some, most, fewer, faster, slower, higher, lower, many, few, completely, clearly etc…  たとえば、fewer, fasterなどは少なめ、速めとなるが、何をもって少ないのか、速いのかが不明確。要は、数字を使って比較対象に対しどのくらい、少ないのか、速いのかをはっきりさせなければならない。Many, fewも同じで、じゃあ、どのくらい多いのか、少ないかがわからない。  私も Significant(著しい、重要)という単語を使って、「なんでそれが重要なんだ?」と突っ込まれたことがある。

内容:完璧な文法、データ、実施の日程etc.が求められる

①参加者のために書く  誰がそのドキュメントを読むのかを考えること。参加者は何をどこまで知っているのか? 参加者にとって何が重要なのか? あなたが承認を求めるなら、その内容は参加者がその決定をするのに十分か? といった点を自問する。

②ドキュメントは冒頭が重要  ドキュメント冒頭の一文はドキュメント全体の印象を決定づける。完璧な文法で意味がクリアな文章にする。

③フレームワーク  内容は絞り切れているか、論点ははっきりしているか、それぞれのセクション(トピック)は完成されているか、結論はデータに基づいているか、解決策の提案か問題提議なのかなど、入念に再確認する。

④理由を明確に  ドキュメントは常にしっかりとストーリーを構築すること。問題提起、背景と分析、結論を整理して示す。主観的な想像は排除し、提言の理由を客観的に明確にする。

⑤なぜそれが重要なのか  ドキュメントの提案が重要である理由について、ビジネス上の利点などを明確にデータで立証する。

⑥誰のための提案なのか  ドキュメントの提案によってメリットを受けるのが誰なのかを明確にする。

⑦いつまでに実施することなのか  提案の実施時期をコミットするのであれば、いつまでかを明確にしなければならない。日程を明確にすることが、提案者の本気度を示す。

⑧チャートは適切に使う  表やグラフ、図などのチャートを使う際には、それが適切かどうかを慎重に検討する。グラフを使用するのであればデータを説明するための最良の方法であるかどうかを自問すること。棒グラフのみで、円グラフは使用しないこと。人間は長さを比較するのが得意だが、角度や面積は正確に比較できない。また 遠近感が情報を歪めるので、3Dを使用しない。  図などのチャートは伝えたいものになっているか検証すること。無関係な質問を招く懸念があれば、コメントを追記したり、明確な表に修正するなど別の方法を検討する。

プレゼンテーション:ゴールに到達させるのは提案者の責任

アマゾントラック

PHOTO/Andrei Gabriel Stanescu

①ミーティングの進行  ドキュメントの提案者、すなわちオーナーが場を仕切ることが求められる。まず、冒頭に、そのミーティングのゴールが「決断や承認を求める」ものかどうか、それ以外であれば明確に目的を伝えること。参加者がドキュメントを読んだ後、意志決定などのゴールに到達できるかどうかは提案者の責任。ドキュメントの論旨を的確に説明できるよう入念に準備する。

②間違いは認める  仮に間違いを指摘されたら認めること。より重要なのはそこから学び、再び同じ間違いをしないこと。そして間違いを修正して改善を加えること。

③学びとして批評を受ける  参加者は、積極的に手厳しいフィードバックも行う。オーナーは必ず発言のメモを取ること。必ずしも全ての発言をフォローアップする必要はないが、クリアな気持ちでメモを見直してドキュメントに反映すること。鉄は熱いうちに打て。

 

<文/星健一> 【星健一氏プロフィール】 1967年生まれ。JUKIおよびミスミで海外現地法人の社長などを務める。2008年アマゾンジャパンに入社、リーダーシップチームメンバーとなり、創世期~成長期の経営層として活躍。2018年アマゾン退社後は、セミナー講師、コンサルティングを手掛ける。著書『amazonの絶対思考