幻冬舎オンラインに第4回目の連載を掲載いただきました。

会員すら知らない「アマゾンプライム」の多すぎるメリット

https://gentosha-go.com/articles/-/24946

「アマゾンプライム」が有料なのに人気なワケ

前回の記事『アマゾン「配達問題」…配送業者のキャパを超える、改善策は?』では、アマゾンがスピーディで高品質な配送を実現するために、日本郵便やヤマト運輸と提携しつつ、独自の物流網「アマゾンロジスティックス」を強化している点について解説した。顧客満足度の向上のため、アマゾンが行っている施策はこれだけに留まらない。

 

たとえば、アマゾンプライムというサブスクリプション(定額サービス)モデルが定着しているのも、アマゾンの特筆すべき強みだ。

 

定額収入による売上げ及び利益への貢献、ロイヤルカスタマーの囲込みを目論み、現在多くの企業がサブスクを導入、模索しているが、アマゾンプライムの日本でのサービス開始は、今から13年も前の2007年である。

 

アマゾンのサブスクモデルは、2007年以降、年間3900円で提供され、徹底的に顧客メリットを追求し、サービス内容ではますます付加価値が拡大、顧客のお得感が醸成されている。昨年、4900円に値上げされても、サービス内容への高い顧客満足度から解約への影響は少なかった。

 

アマゾンの「利益よりも投資を優先させ、スケールメリットを最大化させる」という戦略の上で成り立つサブスクモデルは、誰でも真似できるわけではないが、顧客のメリット、そしてアマゾンのLife Time Value(LTV-顧客生涯価値)まで見据えた戦略をまとめてみたい。

 

アマゾンにとってのメリットは月々の会費が固定的な収益になることだけではない。プライム会員は当然ながら一般顧客よりも購入のリピート率が高く、一回当たりのバスケット価格(一度の購入金額、購入数)も高額であることがわかっている。プライム会員の存在が売上を構成する「顧客数×アクティブ顧客×頻度×購入額」の増大に大きく寄与しているのだ。

 

※2019年3月21日 Statista Frequency with Amazon shoppers in the United States purchase from Amazon as of February 2019, by membership status

 

有料であるにも関わらず、なぜアマゾンプライムは成功したのか。いくつかの要因を挙げることができるが、まず最も注目すべきなのが特典の多様さと豊富さ、高い利便性にある。具体的に、プライム会員の特典を列挙してみよう。

 

◆プライム会員特典

 

〈ショッピング特典〉

 

●無料の配送特典・・・通常2000円以下の買い物の場合400円、お急ぎ便で500~600円の配送料が必要だが、プライム会員は全て無料となる。ただし、マーケットプレイスでアマゾン以外から出荷される場合、送料がかかることもある。

 

●特別取扱商品の取扱手数料が無料・・・サイズの大きな商品や重量の重い商品など、配送時に特別な取り扱いを要する商品に通常必要な手数料が無料となる。マーケットプレイス出店者によって例外があるのは送料と同様。

 

●プライムナウ・・・対象エリア内であれば最短2時間で商品が届くサービスを利用できる。

 

●プライムワードローブ・・・服、靴、ファッション小物の対象商品を、購入する前に試着できる。商品は配送完了の翌日から自宅で最長7日間試すことができ、購入を決めた商品のみ代金が請求される。返品の送料はアマゾンが負担。

 

●アマゾンパントリー・・・食品・日用品を中心とした低価格の商品を1点から購入できるサービス。パントリーボックスは1箱につき390円(税込)が必要。52㎝×28㎝×36㎝の容量、または12㎏を基準として商品を入れることができる。

 

●プライム会員限定先行タイムセール・・・タイムセールの商品を、通常より30分早く注文できる。

 

●ベビー用おむつとおしりふきの15%割引など(アマゾンファミリー特典)・・・プライム会員が対象商品を定期おトク便で申し込む場合、自動的に追加で10%、合計で15%の割引になる。対象商品のページには「アマゾンプライム会員ならアマゾンファミリーからの特典として15%OFFで購入可能」である旨が表示される。

 

●プライムペット・・・飼っているペット(犬・猫)の種類、誕生日などの情報を登録すると、ペット情報やおすすめ商品、お得なセール情報などが表示される。

 

●プライム限定価格・・・対象商品を、通常の価格よりも割引されたプライム限定価格で購入できる。

 

〈デジタル特典〉

 

●プライムビデオ・・・会員特典対象の映画やTV番組を無料で視聴できる。

 

●プライムビデオチャンネル・・・「dアニメストア for Prime Video」「スカパー!アニメセット for Prime Video」「J SPORTS」「釣りビジョンセレクト」など、多彩なチャンネルの方法を月額定額料金で視聴できる。

 

●プライムミュージック・・・100万曲以上の楽曲やアルバム、プレイリストを無料で楽しめる。

 

●アマゾンミュージックアンリミテッド・・・6500万曲の楽曲、音楽のエキスパートが選曲したプレイリストや、カスタマイズされたラジオを視聴できるサービスが割引になる。

 

●キンドルオーナーライブラリー・・・Kindle端末またはFireタブレットで、対象タイトルの中から好きな本を1か月に1冊、無料で読むことができる。

 

●プライムリーディング・・・対象のキンドル本が追加料金なしで読み放題。

 

●Twitchプライム・・・アメリカTwitch社が提供するサービスで、Twitchのアカウントをアマゾンプライムのアカウントと紐づけることでいくつかの特典を得ることができる。

 

●アマゾンフォト・・・アマゾンドライブに写真を容量無制限で保存可能。

 

覚えきれないほどの特典が並んでいるが、「プライム限定価格」以前のショッピングに関する特典、「プライムビデオ」以降のデジタルコンテンツやストレージ(データを記憶するための領域)に関する特典に大別できることにお気づきだろうか。

 

ショッピングに関する特典も多様だが、ことにお急ぎ便含む配送料が無料であることによって、会員は配送料負担による躊躇(ちゅうちょ)がなく買い物を楽しめ、迅速な配送サービスも享受できて、結果、顧客満足度を高める効果がある。

 

さらに、ビデオ、ミュージック、キンドルといったデジタルコンテンツが充実している点も、多くのユーザーがわざわざ会費を払ってでもプライム会員に登録するモチベーションとなっている。また、アマゾンで買い物をする習慣があまりなかった客層に対してコンテンツサービスを訴求することで、新たな顧客を掘り起こすことにも繫がっている。

 

なにより驚くべきなのは、こうしたプライム会員向けのサービスが、年会費わずか4900円(月会費500円)で提供されていることだ。2019年4月に1000円値上げされたが、それまでは3900円(月会費400円)だった。

 

月会費で考えると、毎月1回程度アマゾンで買い物をして、お急ぎ便送料が無料になれば元が取れる計算になる。プライム会費がコンテンツに関する特典への対価と考えても、動画や音楽を配信する他社のサービスの月会費や年会費と比較すると、プライム会員に提供されるサービスがいかにお得感があるか理解できるだろう。低価格を徹底してトラフィックを増やし、スケールメリットでビジネスを成長させていく。アマゾンの基本的な理念と戦略はプライム戦略にも貫かれているということである。

 

しかも、プライム会員と同居する家族2人までは、アマゾンプライムの家族会員として登録可能であることも顧客中心主義のサービスだ。お急ぎ便やお届け日時指定便の送料が無料、プライム会員限定先行タイムセール、プライムナウ、アマゾンパントリーなどの特典を会員と共有できる。

 

「アマプラ」の特典は様々

「アマプラ」の特典は様々

世界のアマゾンプライム会員数は「1億人」を突破

ライフステージに合わせた仕組みを用意して、長期的にプライムメンバー獲得を図り、Life Time Value (LTV-顧客生涯価値)の拡大を見据えているのも周到な戦略である。

 

たとえば、プライム会員特典を半額で利用できる学生のためのプログラムが「アマゾンスチューデント」だ。プライムと特典は異なるが、子育て家族が子供の情報を登録すると、ポイントがプレゼントされて登録者限定セールに招待されるなどのサービスが受けられる「アマゾンファミリー」といったプログラムも用意されている。

 

ちなみに、米国でのアマゾンプライム会費は2018年5月まで99ドルだったのが、119ドルに値上げされた。日本円で約1万2000円である。広大な米国のロジスティックスの事情などを考慮するとこれでも格安ではあるが、日本でも一度、値上げされたとはいえ、わずか年間4900円という会費なのは、現在、スケールメリットを出すために、プライム会員数を拡大するステージであることがわかる。

 

アマゾンは、日本でのプライム会員数を公表はしていないが、2018年にはジェフ・ベゾスが、世界のプライム会員数が1億人を突破したことを株主に向けた書簡で発表している。低価格で特典を提供し、ますますプライム戦略の強化に注力するのは、繰り返しアマゾンをショッピングで利用してくれる優良な顧客を獲得するという目的に加えて、プライムビデオやプライムミュージックといったコンテンツサービスでも大きなシェアを獲得してビジネスの規模を拡大させる狙いがある。

 

日本でもより多くの会員がビデオやミュージックのコンテンツを利用し、そのベネフィット(便益)を実感するようになれば、将来的にある程度の会費値上げも許容される環境ができあがるはずである。値上げがいつになるかはわからないが、ますます革新的なサービス内容が拡張され、日本の消費者の生活の一部となっていくのであろう。

 

 

星 健一

kenhoshi & Company 代表