「アマゾンは楽天市場に勝ち続ける」元本部長が断言した理由
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200117-00025055-gonline-bus_all
あなたは、アマゾンという企業をどのくらいご存じだろうか? 日本でのサービス開始当初「世界最大のオンライン書店」と称されていたアマゾンは、わずか20年弱で「GAFA」と呼ばれる4大IT企業の一角にまで発展した。その驚くべきビジネス戦略や如何に。アマゾンジャパン元経営会議メンバー・星健一氏の著書『amazonの絶対思考』(扶桑社)より一部を抜粋し、「内側から見たアマゾン」を解説する。
過去4回の連載では、マーケットプレイスの表と裏の現状、アマゾンを利用した企業再生、配送問題、アマゾンプライムのメリットなどを深堀りし解説してきた。ぜひ、詳しいことは拙書『 amazonの絶対思考 』(扶桑社)を読んでいただければありがたい。
本記事では、アマゾンのサービスがいかにユニークで強力か、わかりやすく理解を深めるためにアマゾン進出以前から日本国内でEコマースの一大プラットフォームとして普及してきた『楽天市場』と比較してみよう。昨今では、アマゾン、楽天市場の流通総額はほぼ同じと推測される。では、日本市場で先行していた楽天市場が何故、アマゾンの急成長を許し並ばれるまでになってしまったのか。顧客、および販売をする販売事業者の目線に立って、分析をしてみようと思う。
◆販売形態と物流
アマゾンと楽天市場の最も大きな相違点は、アマゾンが自社で直販も行っているのに対し、楽天市場で商品を販売しているのは、ほとんど全て出店している販売事業者であることだ。
アマゾンは直販商品を販売するためにフルフィルメントセンター(Eコマースにおける在庫、梱包、発送などを行う拠点、倉庫)をはじめとする独自の物流網を構築している。しかし、楽天市場では、基本的に配送は販売事業者任せとなっていたため、配送サービスの充実化にはかなりの遅れをとっており、配送品質は不安定である。
アマゾンにも販売事業者が出店するマーケットプレイスがあり、アマゾン全体の58%※1が、販売事業者に対し、在庫配送代行サービスであるFBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)を提供し、配送の品質をアマゾンの高い「基準」に保つ施策が採られている。
※1 2018年 amazon.com 決算報告資料
楽天市場もただ手をこまねいていたわけではない。最近ではドラッグストアチェーンを買収し、子会社化して直販事業にも進出した。また、販売事業者の商品を預かって出荷を代行する物流センターを千葉県市川(いちかわ)市や兵庫県川西(かわにし)市、千葉県流山(ながれやま)市、大阪府枚方(ひらかた)市などに設けて「楽天スーパーロジスティクス※2」と名付けた総合物流サービスの提供を始めている。
※2 楽天ウェブサイト http://logistics.rakuten.co.jp Rakuten Super Logistics
当日配送、翌日配送をコミットするアマゾンへの対抗策として、手数料無料で急ぎの商品を最短で翌日に届ける「あす楽※3」というサービスも始めているが、物流センターや「あす楽」を利用するかどうかは出店する事業者ごとの判断だ。
※3 楽天ウェブサイト http://logistics.rakuten.co.jp Rakuten Super Logistics
そのため、まだまだ浸透しているとは言いがたいのが現状だ。顧客の視点からも、多くの商品が出店者からの直接配送で、配送品質が不安定であることを感じ取っているだろう。
これらの理由より、アマゾンは流通総額の42%を占めるアマゾン直販商品に加え、マーケットプレイスの多くの商品がアマゾンの高い配送品質(正確性とスピード)で顧客のもとに届いていることになり、顧客は楽天市場との配送の質の差を感じている。
◆シングルディテールページ
同じ商品の詳細を紹介するカタログがストア内に一つしか存在しない「シングルディテールページ」は、アマゾンと楽天市場の最大の違いといっていい。
アマゾンはそもそもジェフ・ゾベスのフライングホイールの理念に基づいて、もともとは直販、物流を軸としてEコマースのサービス全体を綿密に構築し、のちにそのプラットフォームを第三者にもマーケットプレイスとして開放した。
しかし、楽天市場の成り立ちは、最初から多店舗の出店(2019年2月現在、約4万6686店※4)によるEコマースショッピングモールのプラットフォームであった。
※4 楽天市場 出店案内サイト
出店者は各自で商品のタイトルを決め、ある程度のテンプレートに沿ってはいるものの自由にカタログページを作成する。そのため、楽天市場で商品を検索すると検索結果画面に数多くの出店者が表示され、さらに、出店者ごとにバラバラのカタログページへのリンクがずらりと並ぶ。
顧客にとってわずらわしいばかりでなく、大切な商品情報を見逃したり、仕様のバリエーションや色違いなどの選択で間違いなども起こりやすい。モール型のEコマースサービスで、カタログページ(ディテールページ)が煩雑なのは、近年、出店事業者数が大きく伸びた『ヤフーショッピング』も同様だ。
アマゾンと楽天市場の両方に出店している販売事業者も少なくない。販売事業者からすればともに「出店」しているという感覚かもしれないが、アマゾンは全体が一つのストアであり、販売事業者それぞれにストアを持たせるという概念がない。買い物したショップからダイレクトメールが届くこともなく、顧客にとってはよりシンプルにショッピングができる仕組みになっているのである。
同一商品のカタログページは1ページだけにするといっても、実はなかなか難しいことでもある。たとえば、JAN(Japanese Article Number)コードと呼ばれる世界共通の商品識別コードが付いている商品であれば、商品登録の際にコードの入力を義務付けて整理していけるが、商品によってはそうした識別コードを持たないものもある。
アマゾンでは販売事業者が登録した商品のビッグデータを常にチェックして、同じ商品のカタログページが重複しないよう促す仕組みを開発し、重複した商品カタログを削除している。
◆商品数
前述したように日本ではアマゾンと楽天市場の両方に出店している販売事業者が多く、国内で流通している商品数はあまり大きな違いはないだろう。ただし、アマゾンのマーケットプレイスには個人も出店可能で、たとえば古書など中古品までラインアップしているのが、楽天市場との大きな違いになっている。
さらに、アメリカや中国など、海外の販売事業者を日本のアマゾンに勧誘するチームがあって、今まで日本では買えなかった商品でさえ、アマゾンでは統一されたシングルディテールページで日本語の商品説明を読み、日本国内で普通に流通している商品と同じ利便性で買うことができる。これもまた、アマゾンと楽天市場を差別化しているポイントのひとつといえるだろう。
◆ポイント制度
ポイント制度は、逆に楽天市場の強みであるといっていい。付与率は1~10%(100円で1~10ポイント程度)とわずかなものだが、楽天トラベル、楽天銀行、楽天カード、楽天GORA(ゴルフ場予約サービス)、楽天チケットなど、グループ会社内のさまざまなサービスで使用できるこの共通ポイント制度は「楽天経済圏」「楽天エコシステム」などと呼ばれて日本に定着している。
また、ヨドバシカメラなどの量販店でも独自のポイント制度が定着しているなど、日本人は世界でも珍しいほどのポイント好きだといえる。
アマゾンジャパンでも2007年からポイント制度を導入している。ポイント制度を採用しているのは世界中のアマゾンの中でも日本だけである。2019年2月にはアマゾンジャパンのサイト上で販売するマーケットプレイス全商品を対象に、販売価格の1%以上のポイントを付与することを必須にすることを発表した。
ところが、この発表に対して公正取引委員会から「当該ポイント分の原資を出品者に負担させる旨の内容としたことについて,独占禁止法上の懸念(優越的地位の濫用)」があるとして調査※5が入り、「商品をポイントサービスの対象とするか否かについて、出品者の任意」とすることになったのだ。
※5 2019年4月1日 公正取引委員会-アマゾンジャパン合同会社によるポイントサービス利用規約の変更への対応について
個人的には、日本人が大好きなポイント制度そのものを私はあまり好きではない。さまざまな店舗やサービス業でポイントカードを乱発していて、会計の度に「ポイントカードを作りませんか」などと勧誘されるのがわずらわしい。
またポイント制度は、店舗などサービスを提供する側が顧客をつなぎ止める際、購買データを分析したいという販売者側都合の施策でしかなく、また、ポイントの分だけ値段が高くなっているだけに過ぎないと考えるからだ。
◆プライムプログラム
アマゾンプライムは、楽天市場をはじめとする他のEコマースサービスとアマゾンを差別化する強みになっているといっていいだろう。楽天市場でも購入履歴に基づいて上がる会員ランクに応じて誕生日のポイントプレゼントなどの特典が用意されているが、アマゾンプライムは「ポイント特典」とはまったく関係なく、送料無料や連携するコンテンツサービスなどのデジタル特典が最大の魅力になっているからである。
ちなみに、デジタルコンテンツの一部である電子書籍の分野では、アマゾンが独自に「キンドル」を展開しているのに対して、楽天はカナダのスタートアップ企業だった「Kobo(コボ)」を買収して電子書籍事業にも乗り出している。が、電子書籍ストア利用率のシェアはキンドルストアが24.2%で1位であるのに対して楽天Kobo電子書籍ストアは12.4%で第3位※6。急伸した「LINEマンガ」にも抜かれ、あまりうまくいっているとは言いがたい。
※6 2019年7月24日 ECのミカタ 2018年度の市場規模は2826億円 拡大する電子書籍市場について明らかにするインプレス社の調査レポートが公表される
◆販売事業者のグローバル展開
今度は、販売事業者の視点に立ったときに、アマゾンの販売における基本的な仕組みや商品詳細ページ、「セラーセントラル」(出品管理システム)などのシステムが世界共通であることは、ことに販売事業者にとってアマゾンのメリットになっている。
つまり、たとえば日本のアマゾンで成功した販売事業者が、アメリカやヨーロッパなど他国に進出するのが容易なのである。プラットフォームは世界共通だし、マーケットプレイスの販売事業者にはアマゾン独自の商品カタログ自動翻訳システムが提供されている。
それぞれの国ではフルフィルメントセンターに商品を預かって出荷配送を代行するFBAサービスが日本と同様に用意されており、日本からの輸出業者をアマゾンから紹介することも可能。国内で販売するのとほとんど変わらぬ手数で海外進出ができてしまう。詳細な数は公表されていないが、日本のアマゾンで成功体験を積み海外進出を果たしている販売事業者は、すでに数万店のレベルに達している。
◆販売事業者へのサービス
販売事業者へのサポートについての考え方や取り組みも、アマゾンと楽天市場で異なっている。2014年、私がマーケットプレイスの責任者であった時期、つまりほんの数年前でさえ、販売事業者の中には「楽天市場のほうが手厚いサポートをしてくれて売りやすい」や「アマゾンでは直販の商品もあって競合しているようでやりづらい」といった不満の声をもらうことが少なくなかった。
楽天市場では、ネット初心者の販売事業者が出店を検討するところから、新規出店コンサルタントが相談に乗り、ページ作成は店舗オープンアドバイザーがサポート、オープン後もそのショップを担当するECコンサルタントからのアドバイスなどを受けられる。さらに「楽天大学」と名付けたネットショップ運営ノウハウの教室を有料で開催している。
また、月間や年間のベストショップを表彰する「ショップ・オブ・ザ・マンス」「ショップ・オブ・ザ・イヤー」といった表彰制度が販売事業者のモチベーションになっている面もある。
アマゾンでも販売事業者へのサポートは提供している。オンライン講座「アマゾン出品大学」の提供や、専任スタッフによるサポート窓口は設けているが、販売事業者ごとに担当者を付けるようなことは一部大手出品者を除いては行っていない。
そもそも、販売事業者に対する考え方が違うのである。つまり、アマゾンにとって販売事業者はビジネスを展開する上でのパートナーという位置づけである。それに対して、楽天市場では出店者にほぼ100%依存するビジネスモデルであり、出店する販売事業者そのものが楽天の顧客なのである。
アマゾンは顧客である消費者を中心に考え、直販と同様に最適なサービスを提供するために、数十万の全ての販売事業者に対して公平性を保ちながらツールなどの改善を重ね、合理的なシステムを構築することを重視している。
アマゾンのストロングポイントへの理解を深めるために、あえて楽天市場と比較してきた。楽天市場は流通総額が想定で年間3兆円に迫る規模の巨大なEコマースのプラットフォームであり、日本国内には出店する販売事業者も利用する顧客も多い。
でも、ビジネスの舞台はあくまでも日本国内が主軸であり、グローバルスタンダードにはなり得ていない。なぜならば、アマゾンは世界共通のプラットフォームで他国展開したのとは逆に、楽天の多くの海外拠点は買収によるもので、楽天のプラットフォームをなかなか展開することができず、結果、撤退した国も多い※7。
※7 2017年2月18日 Business Journal 楽天、アマゾンに完敗し海外事業撤退の嵐…「ガラパゴス化」加速、巨額損失の悪夢
アマゾンと楽天の根本的な理念の相違には、なぜGAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)が世界を席巻(せっけん)し、日本発の製品やサービスがことごとくグローバルスタンダード争いで敗北していくのか、そのヒントがあるように思う。
ただし、Eコマースの成長はまだまだ見込める。日本、欧米に続く、中国、インドあたりはレッドオーシャンになりつつあるが、人口増、GDP拡大を続ける東南アジア、中近東やアフリカはどうだろう? まだ、圧倒的なプレイヤーが存在しているわけではない。ぜひ、楽天やメルカリなどにはアマゾン以上に世界を席巻していただきたい。ガラパゴスにならずに顧客、パートナーを引きつけるプラットフォーム創り、世界に目を向けた一気呵成の投資、また、世界を見据えたグローバル/ダイバーシティ採用と組織デザインなどを進めていただきたい。
星 健一
kenhoshi & Company 代表