アマゾン「何でこんな人が上司なんだ?」を防ぐ人事評価の凄み
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200306-00025866-gonline-bus_all
あなたは、アマゾンという企業をどのくらいご存じだろうか? 日本でのサービス開始当初「世界最大のオンライン書店」と称されていたアマゾンは、わずか20年弱で「GAFA」と呼ばれる4大IT企業の一角にまで発展した。その驚くべきビジネス戦略や如何に。アマゾンジャパン元経営会議メンバーで現在は、kenhoshi & Companyの代表としてコンサルティングを手掛ける星健一氏の著書『amazonの絶対思考』(扶桑社)より一部を抜粋し、「内側から見たアマゾン」を解説する。
過去の連載では、アマゾンのビジネスモデル、アマゾンプライムプログラムや楽天市場と比較した場合の強み、アマゾンの企業文化の骨幹であるリーダーシップ・プリンシパルと呼ばれる行動規範などの分析を通し、アマゾンの「絶対思考」はどのようなものなのかを解説してきた。ぜひ、詳しいことは拙書『 amazonの絶対思考 』(扶桑社)を読んでいただければありがたい。
そして前回は、アマゾンの人材開発への姿勢、実際の施策について紹介した(参考『 アマゾン、レベル3以上で正社員…ジェフ・ベゾスのレベルは? 』)。では、採用された人材は、どのように評価されていくのか。本記事では、アマゾンの「人事評価」の方法について解説していく。
◆三つの公平にして厳格な「人事評価」
人事評価※の基準は、一般的な企業に比べて公平にして厳格だ。基準には大きく分けて三つの側面がある。まず一つ目が、「SMARTゴール」に対するパフォーマンスの達成度だ。
※2018年10月2日 PerformYard How Does Amazon Do Performance Management
というのも、アマゾンでは、年初に部下と直属上司が「ゴール設定」を行い、その達成をフォローしていく仕組みが徹底されている。そして設定するゴールは、「SMART」、つまり「S=Specific(具体的であること)」「M=Measurable(測定可能であること)」「A=Achievable(達成可能であること)」「R=Relevant(会社及びチーム目標に関連している)」「T=Timebound(明確な達成時期を定めること)」という五つの原則にかなったゴール(目標)であることが求められている。
基本的には、4月~翌年3月の1年間の目標を設定した上で、中間の9月に一度、進捗確認をし、3月に評価が決定する。直属上司とのミーティングにおいて、測定可能な達成度として示されるから、評価は非常に明確だ。
達成度は5段階に分けられる。Outstandingと呼ばれる目標をはるかに超えた最高のパフォーマンスを出したレベルから、Unsatisfactoryと呼ばれるほとんど成果を出せず早急なる改善が必要なレベルまでに分けられる。達成度の段階的な評価自体は、多くの企業で行われているだろう。
二つ目が、リーダーシップ・プリンシプルをベースとしたその人のリーダーシップ、仕事の進め方などの評価である。本連載で何度も伝えているように、リーダーシップ・プリンシプルはアマゾンの「基準」なので、それに沿った行動ができているかどうかは重要な評価軸である(参考『 絶対王者アマゾン、努力や根性に頼らず重視した「14の基準」 』)。
評価は3段階で、お手本になったという意味での最高の「Role Model(ロールモデル)」から、最低のもっとバリューを出しなさいという「Development needed(ディベロプメントニード)」となっている。この評価決定方法がユニークだ。
普通の会社であれば評価は上司が部下に下すもの。でもアマゾンでは直属の上司に加え、同僚や部下、仕事で関係した社内他部署の担当者など、360度からのフィードバックが加味される。
フィードバックは、いつ、どの場面で、どのリーダーシップ・プリンシプルが、どのように発揮されたのか、もしくは悪かったのかを具体的に書かなければならない。同僚や他部署関係者には自分でフィードバックの依頼をするのに加え、さらに上司が追加で他からのフィードバックを取ることもある。最終的にはその社員に対して集まった10数名分以上の評価を総合して客観的な評価が決定される仕組みになっている。
フィードバックを依頼されて書くほうも真剣だ。そのフィードバックを頼んできた人の上司が読むからである。内容が的外れだったりするとフィードバックをした人の心象が悪くなることもあるので、フィードバックのクオリティーには注意を払う必要がある。
私は常に数十人からフィードバックを依頼されていた。具体的な事例を持って書かなければならないので、常日頃から関係者の行動や言動、それによってもたらされた効果などを記憶にとどめるようにしていた。あまり覚えのない、関係の薄い人からのフィードバックの依頼は断ることもできる。
最後の三つ目は「成長性」の評価。会社が急成長しており外部からの採用だけでは間に合わず、既存社員の育成、ストレッチ登用、そしてなるべく速く昇格させレベルの高い仕事を任せることが必要になっているアマゾンは、メンバーの成長性も重要視している。
評価は一般的な3段階で、最高のHighは4年以内に職級であるレベルが2段階上がる可能性のあるメンバー、最低のLimitedは昇格の可能性がないメンバーに分けられる。
三つの評価結果を掛け合わせた最終的な総合評価は直属上司の役割だが、それだけではせっかくの360度フィードバックも加味されず、その上司と評価される部下の人間関係が必要以上に影響してしまう懸念がある。そのため、各部署の評価を事業部門ごとに、その配下の部門長クラスの人間が集まり全て再チェックする「Calibration(キャリブレーション)=調整」が行われる。
ここでは、たとえば、「この人Invent and Simplifyで高い評価だけど、どの事例が当てはまるの?」「この人、Customer obsessionにおいて評価が低いけど、この場面でリーダーシップを発揮していたよ」、「なぜ、この人の評価は低いの?」などと議論をしながら評価を調整、変更していくのである。
人事評価に100%の客観性、公平性はあり得ないとはいえ、多くの視点から明確な基準で評価することで、アマゾンの評価システムはかなりハイレベルの客観性、公平性を獲得しているといえるだろう。
たとえば、優秀ではない、尊敬できない上司がいて、主観的に不当な評価を受けたとしよう。しかし、その部下は上司の評価もできるし、360度評価により、その上司の上司には公平なフィードバックが多く集まってくるのだ。
その結果、その尊敬できない上司は淘汰(とうた)されることになるだろう。なので、一時的な不公平が起こる可能性はゼロではないが、一般的に、どの会社にも起こりうる、「何でこんな人が自分より役職が上なんだろう?」「このような上司にはついていけない」などと、退社後、同僚と酒をのみながら愚痴をいうような状況は少なく、必ずと言っていいほど浄化作用が効いていくのである。
私も非常に優秀で高く評価していた直属の部下がいたものの、360度評価のフィードバックを読んでみると、どうやら二面性を持っていて、パワハラの問題を抱えていることを知り、自分の見方を改め、その部下をコーチングしたこともあった。
私自身に伝えられた360度フィードバックの中には自分の至らない点が指摘されていたし、また、尊敬されている面も理解することができた。あらためて客観的に自分の強み、そして弱みである改善点を再確認することができ、その後のリーダーシップの取り方の参考にした。
評価には100%の公平性はないという点について、私が部署を異動する際にメンバーに残したメッセージが四つある。そのうちの一つを紹介したい。
◆最後のメッセージ
皆さんお疲れ様です。何名かの方から、その(1)、その(2)のメッセージについての感想をemailでの返信や、直接の言葉をいただきました。少なくとも、その方たちには何らかを考えるきっかけになったようでうれしいです。その会話の中で、共通した悩みがあるように感じたので、それをUnfairnessとCareer(不公平とキャリア)というようにまとめて、あくまでも私見を述べたいと思います。会社の方針ではないので、皆さんに何ら影響を与えるものではありません。
さて、皆さん、この世の中、それはビジネスであっても、私生活であっても、Fair、即ち公平なことばかりでしょうか? 少なからず、理不尽なこと、不公平と感じることに対し、皆さんは時々、もしかしたら毎日、直面していませんか?
なぜならば、それぞれ価値観が異なる人達が集団となっているのが、チームであり、事業体であり、会社であり、社会、マーケットであり、そして、それぞれ価値観が異なっているがゆえに感じ方が違い、時として不公平と感じるのです。
ということは、様々な場面で決断されることは、主観的には全てが公平であることはありえません。長期的にみれば、いろいろな人々と関わることによって、平準化され、不公平と感じることも是正されていくでしょうが、短期的、場面場面、それはたとえば、理論的に正しいと思う自分の考えが受け入れてもらえないことであったり、忙しい時に新たなタスクが降ってくるときであったり、上司の判断が間違っていると感じる時であったり、皆さんが不公平と感じることを拭い去ることはできないかもしれません。
不公平は、時に人のプロモーションでも関わってくるでしょう。異常なスピードで拡大するAmazonのビジネス、それを支える組織の拡大ですが、リーダーシップ・プリンシプルという骨幹で支えられているものの、それを尺度にプロモーションを判断するのはやはり価値観が異なる人間なのです。
急成長の組織を支えるために、他社と比較すると早いスピードで人々を育成し、上に上げていこうという状況に、歪(ゆが)みがでることもあります。100%公平な人事を目指していても、必ず、見る人によっては捉え方が違うからです。要は、なぜ、あの人が?なぜ、私がダメなのか?と言った具合でしょうか。
そのような多少不公平な環境の中、皆さんは自分の実力を冷静に分析し、成長段階における現在置かれている自分のステージを理解してください。周りを見て焦る気持ち、悔しい思いを、さらなるやる気につなげることももちろん重要ですので、すぐに行動に移してください。
一方、周りに流されずに、自分を客観的に見つめ、自分の速度で一歩一歩、階段を登っていくことも素晴らしい選択肢だと思います。
不公平は時間によって是正されるし、見ている人は見ています。不公平であっても、ずっとそのままではありません。そして、自分に来たチャンスを敏感に感じ取って、この時とばかりに一気呵成にそのチャンスをがむしゃらに取りに行ってください。
どんなチャンスだって? 具体的にどんなこと? 私が何を言っているのか、皆さんが一番、理解しているのではないでしょうか。なぜならば、時に人は自らを鈍感にし、気が付かないふりをするからだと思っています。私も皆さんと同じで何も変わりません。
組織ですから、いろいろな人がいていいと思います。しかしながら、仮に不公平と感じている人がいるとしたら、何らかの行動をすることを勧めます。おまえに言われなくてもわかっているよという方たちには余計なお世話かもしれませんね!
皆さんの輝ける未来が楽しみですね。心より応援しています。
星 健一
kenhoshi & Company 代表